共同研究開発の成果を最大化する方法! 共同研究開発契約入門(2/3)

共同研究開発契約入門-3

3回に渡ってお送りする予定の共同研究開発入門編。

第2回目は以下の通り、

共同研究開発契約における契約交渉前の準備、共同研究契約書の構成、
各条項の概要とポイントおよび「ひな形」利用時の注意点、
共同研究開発契約書の条項間で気をつけるべきポイント

についてお話させていただきます。

1.はじめに

2.「技術契約」「共同研究開発契約」とはなにか

3.研究開発の流れと技術契約

4.共同研究開発契約―契約交渉前の準備                 ←本トピックス

5.共同研究契約書の構成、各条項の概要とポイントおよび「ひな形」について←本トピックス

6.共同研究開発契約書の条項間で気をつけるべきポイント         ←本トピックス

7.契約交渉時のポイントと契約締結から契約後の管理まで

8.まとめ

9.参考文献および(当研究所のブログ)参考トピックス

 

4    共同研究開発契約についてー契約交渉前の準備

ここからは、共同研究開発契約について、その交渉前の準備から、契約書の各項目のポイント、契約締結後の管理などについてお話させていただきます。

共同開発契約図表7

4.1   自社のニーズの明確化

(1)何のために共同で研究開発などを行うのかという目的を明確にすることが交渉前の準備の第一歩

相手と取引や共同研究開発を始めるかの検討段階で相手と情報交換を行う際の秘密保持契約や、相手にこちらから研究開発をお願いする委託契約、あるいは相手の研究開発を受注する際の受託契約以上に意識すべきこととして、共同研究開発においては、特に民間企業同士の場合、研究開発だけでなく、その成果を用いた事業においてもパートナーの関係となることがほとんどの場合前提となってきます

 

したがって、秘密保持契約等以上に、ビジネスの目的から常に逆算して技術の調達と事業提携の両面から検討し、今回の共同開発の方針と目的、目標を設定する事が必要となってきます。

 

具体的には、

自社の事業の目的

⇒目的達成に必要な技術の特定

自社内開発すべきか(できるか)、誰か社外の力を借りるかという技術の調達

⇒調達の場合、他社と役割分担して共同で技術開発するのか、他社から調達(委託)するのかの判断

共同で技術開発するうえで得たい成果から共同研究開発の目的と目標を設定

という流れで、まずは共同研究開発の目的・目標を事業の目的から逆算して設定していきます。

上記の「共同研究開発で得られる成果」については、研究開発の役割分担とその後の事業提携における役割分担の間で整合が取れていること、成果の取り扱いが非常に重要となります。

成果の帰属どちらかの単独か共有か成果はどのように実施するかについて、研究開発後のビジネスを具体的に想定しながら、 研究開発の成果だけでなく、お互いが既に持っている技術や知的財産の利用も含めて検討することが必要です。

 

このように、共同研究開発の目的はなにか、得たい成果は何かを具体的に考え、明確にすることが、研究開発契約の事前準備の第一歩であり、この検討段階で場合によっては共同研究開発は行わないという決定が必要になる場合も出てきますので、最初から「共同研究開発ありき」「契約ありき」で検討を始めないという意識を社内で共有しておくことが重要となります。

 

(2)成果の使い方から逆算した「成果を使う時期」も重要

得られる成果を事業でどの様に使うのかを明確にする際には「いつ使うのか」という時期の設定も重要となります。

この「成果を使う時期」から、「成果を得るべき時期」⇒「共同研究開発の期間・期限」を検討していきます。

 

この使う時期には、「使い始める時期」の他に「使う期間」も含まれています。短期間使うものか、中長期に使うものかによって、例えば、共同研究開発する相手とどのくらいの期間秘密情報を守るか、またお互いに自社の分担部分についてサポートするかなどの条件が変わってきます。

 

(3)「誰と何をどの様に」の共同研究開発の骨子を決める

(1)~(2)から、「誰と共同研究開発すべきか」、「(研究開発等)どの範囲のどの業務を共同研究開発するのか」、「費用はいくら掛けられるのか」などを含めて、「誰と、何を、どのように分担(共同研究開発)するのか」という、共同研究開発契約の骨子を決めていきます。

 

なお、この「得たい成果や時期を個別具体的に考える」段階は、契約書ひな形や、以前締結した契約書を焼き直して使う場合におろそかになり易いので、注意が必要です。

 

4.2   自社のニーズの内部共有

(1)社内の認識のズレ・すれ違い

契約担当者と、共同研究開発の成果を使う人が異なる場合などに、この自社のニーズに関する認識のズレやすれ違いが起きるのを見ることがあります。

また、共同研究開発の成果を使う人や部所が複数の場合にも、それぞれの立場によって、得たい成果やその使い方が微妙に異なることがあります。

 

(2)契約相手と交渉に入る前に、認識のすり合わせと共有を行う

共同研究開発の成果やその使い方に関する認識が社内でずれたまま、契約相手と交渉を始めることは、交渉中に自社の方針の軸やスタンスがブレたり、交渉の結果まとまった内容について、あとで自社内から異議が出てきたりするといったトラブルが生じる原因にもなりかねません。

 

 

従って、契約の交渉前に、まずは自社内でニーズと得たい成果およびその使い方を共有しておくことが重要というか必須となります。

なお、書面で契約するという一連の作業自体が、自社内の共同研究開発目的共有のツールとしても使えますので、契約交渉を社内での技術開発に関する認識共有の機会の一つとしても有効活用されることをお勧めする次第です。

4.3   自社の制約条件(費用、期間など)の明確化

(1)「ヒト、モノ、カネ+情報」から研究開発の制約条件を考える

共同研究開発の実務に従事する要員、自社自身や共同研究開発先が使用する自社の工場などの施設・設備の範囲、共同研究開発する際に自社が出す費用など、いわゆる「ヒト、モノ、カネ」に加えて、共同研究開発する際に自社が共同研究開発先に提供する技術情報や事業情報などの秘密情報はどこまで出せるかなどの、共同研究開発にあたっての制約条件を明確化し、費用などは必要に応じて予算に関係する担当者や部所と調整する必要が出てきます。

 

(2)社内調整

また、相手に提供する秘密情報などは、共同研究開発のニーズを持つ部所だけでなく、その秘密情報に関連する部所との調整が必要な場合もありますので確認が必要です。こういった社内調整も、交渉前に済ませておくことが、円滑に交渉を進めるためにも重要なプロセスとなってきます。

さらに、モニターなどの形でお客様やユーザーなどの第三者が関係する場合は、それら第三者の個人情報の扱いなども重要な制約条件になり得ますので注意が必要です。

※>、独占禁止法下請法不正競争防止法などの法規制も、大変重要な制約条件(場合によっては自社に有利な条件)となりますが、紙幅の関係で、ここでは割愛させていただきます(巻末の参考文献ご参照)

 

4.4   「譲れる部分と譲れない部分」を明確にする


4.1~4.3のプロセスを通じて、事業ニーズから逆算した共同研究開発で得たい成果の内容、使い方、使う時期(得たい時期)等および制約条件が明確になりましたら、次は契約の条件について、譲れる部分と、譲れない部分を明確にしていくプロセスに入ります。

 

4.5   相手のニーズを知る、推測する

上記の社内での契約条件の明確化と平行して、共同研究開発先となる企業や研究所等の持つニーズ、事情、制約条件などの情報収集を行います。

できれば相手の背後にある関係者も含めて、相手の状況や今後の方針について知ることができれば、共同研究開発の範囲や期限の実効性の裏付けをとり、交渉において前述の譲れる部分でどのような提案ができるかの検討にも役立ちます。

なお、普段からお付き合いのある相手先や、今までの同様のテーマで共同研究開発を行ってきた場合でも、自社や相手の事業環境が変化していたり、担当者や決定権者の交替などで意見が変わったりすることがありますので、念の為の確認が望ましいかと考える次第です。

 

4.6   相手の手札を予想し、自分の持つ手札と比較する

自社のニーズや制約条件、共同研究開発先のニーズや制約条件から、相手が要求してくる契約条件と、そこで相手が交渉のうえで切ってくる手札(自分の主張の裏付けなど)を予想して、自分が持つ手札と比較しておくことができると、自分の手札が十分か、更に準備が必要かなどを検討しやすくなります。

このプロセスでは、譲るか譲らないかではなく、まずはWIN-WINとなる条件共同研究開発の目的の上位概念」で探すことも、交渉の選択肢を広げるうえで有効であり、事業目的が達成できないリスクの予防にもなるので検討をお勧めする次第です。

 

4.7   契約できない時の対応も想定して準備する

契約交渉は相手のあることなので、周到な準備を進めて共同研究開発契約交渉に臨んでも、残念ながら条件が折り合わないということもあり得ますね。

そのような、契約締結に至らない場合にとり得る選択肢を考えておくこともリスク対策として必要となります。

これが、いわゆる交渉術でBATNA=Best Alternative To a Negotiated Agreement (交渉が決裂した時の最善の対処策、案不調時対策案) と呼ばれる対策案で、これを用意できるかどうかで交渉の進め方の幅と難易度が大きく変わってきます。

例えば、【事前に】共同研究開発先の別の候補を見つけて、現在交渉しようとする相手との共通点・相違点を押さえておき、交渉決裂時に別の候補と交渉を行うというのが、BATNAに相当します(専門家などのアドバイスを得ながら自前で開発するというのも選択肢の一つですね)。

BATNAを持っていると、最悪交渉がまとまらなくても良いということで、余裕を持って交渉に臨み、有利に進めることが期待できるので、是非交渉前の段階で用意できるように準備を進めることをお勧めする次第です。

 

 

5    共同研究契約書の構成と各条項の概要とポイントおよび「ひな形」利用について

5.1   共同研究開発契約書の構成例

契約はどのような形式でも、相手と合意し、法規制等で規定されていない限りは原則自由に結ぶことができるというのがいわゆる「契約自由の原則」と呼ばれるものです。

従いまして、以下に説明する構成も、あくまで一つの例としてお考えいただければ幸に存じます。

共同研究開発契約では大まかには以下のような構成を取ることが一般的かと思います。

(1)契約書のタイトル(表題)

(2)前文:本契約の締結者、契約の目的(概要)、既存の関連契約などを記載

(3)本文:契約の目的、この共同開発で行う内容や成果等の取り扱い、その他契約で取り決めるべき内容を記載

(4)末文:締結者名と押印欄、締結日を記載

 

この中の本文中に、共同研究開発契約では、一般的には、

  • お互いにとっての、今回の研究開発の目的
  • 研究開発の範囲
  • 役割分担
  • 研究開発に必要な資源(場所、設備、人など)
  • 費用負担
  • 研究開発期間とその間の進捗管理方法
  • 研究開発報告書等の成果物(とその作成期限)
  • 成果の特定方法とその帰属の決め方
  • 成果の実施の方法
  • 秘密保持規定
  • 契約自身の有効期限、その他の一般的な条項

などを規定していきます。

 

5.2   各条項の概要と気をつけるべきポイント

共同研究開発契約を実際にどの様に記載すると注意すべきポイントについて、 『知っておきたい特許契約の基礎知識』独立行政法人 工業所有権情報・研修館、以下「基礎知識」)などを参考にしながらご説明します。 (あくまで一例であり、案件ごとにあるいは、企業毎に記載内容や表現は変わってきますのでその点について十分にご留意ください)。

 

(1) 表題

文頭のタイトルとして、単に「共同研究契約書」や「共同開発契約書」と記載することもありますが、「●●●に関する共同研究開発契約書」と、何に関する研究開発の契約なのか判断できるような表題をつけることが他の契約と区別がつき、後々の管理に便利ですのでお勧めしております。また、同じ相手と同件名で連続して契約を結ぶ場合には、通番や(2020年度版)などの対象時期を付けて区別することも検討することをお勧めする次第です。

(2) 前文

誰と誰が契約締結者)、どんな目的で、どんな共同研究開発について契約するのかという契約の内容を簡潔に記載します。

具体的には、

「X株式会社(以下「甲」という。)とY株式会社(以下「乙」という。)とは、●●●の研究開発(以下「本研究開発」という。)を共同して行うことに関し、次の通り合意に達し、本契約を締結する。」

というように、締結者名とそれぞれがどんな対象について共同で研究開発(以下「本研究開発」)するかについて記載します。

また、この契約に関連する契約(以前に結んだ基本契約や秘密保持契約など)がある場合は、その契約との関係も記載することが、今回の契約について関連する契約により課される制約条件や、締結後の関連契約の管理面で重要となります。

具体的には、

「X株式会社(以下「甲」という。)とY株式会社(以下「乙」という。)とは、●●年●月●日付で甲乙が締結した「秘密保持契約」(以下「原契約」という。)に基づき検討を進めてきた結果、●●●の研究開発(以下「本研究開発」という。)を共同して行うことを決定し、」

などと、記載します。

なお、この際に今回の契約当事者以外が既存の関連契約の締結者に入っている場合や、その逆に、既存の関連契約には入っているが、今回の契約当事者には入っていないという場合もあり得ますので、契約書の記載だけでなく、関連当事者との調整にも気を配ることが重要となります。

また、契約締結者以外の企業などを自社の業務分担の委託先等の関係で記載することもありますが、その第三者と同名の企業が存在する可能性がある場合は、その企業の社名の他に本社所在地などを記載するなどして、特定できるようにしておくことも必要となります。

 

  • 本文お互いにとっての、今回の研究開発の目的

前述のように、どのような目的で、何を対象として研究開発を行うのかを記載します。行う共同研究開発の内容と現段階でどこまで具体的に決まっているかによって、記載の詳細さの程度を決める必要がありますが、できるだけ具体的に記載することが、契約者同士や自社内での認識を正確に共有するためには望ましいかと思います。

  • 研究開発の範囲

ここでは、研究開発は、例えば●●●の設計までなのか、試作品を作るところまでか、試作品を運転して結果を分析するところまでかなどの、今回の契約に基づき行う研究開発の範囲を設定します。今回の例では、以下の図のように、研究の分担の中で、●●●の設計から実証実験装置の組み立てと実証実験、および実験結果の整理と報告書作成までを本研究開発の範囲と規定しています。

  • 役割分担

本契約の各締結者が、どのように役割分担をするのかを記載します。例えば、表形式で本研究開発で行う研究開発項目を記載し、そこに甲乙どちらが分担するかを記載するという方法や、それぞれが行う内容を箇条書きで記載するなどの記載方法があります。

 

internship

また、『その詳細については甲、乙協議のうえ定める。』と詳細は別途規定することを記載したり、詳細を別紙や別添の共同研究開発計画書のような形で記載したりする方法を使う場合もあります。

なお、記載方法とは別に、共同研究開発の目的や範囲との適合性と、費用・期限などの制約条件からの検討を行い、契約相手とも合意することが必要となります。

また、分担する業務の一部を第三者に委託する場合は、後述の成果の帰属や秘密保持義務などの規定を委託先にもかけること、その履行を委託する契約当事者が保証する*ことなどを規定しておく必要があります(*>委託先が今回の契約締結者に入らない場合)。

 

  • 研究開発に必要な資源(場所、設備、人など)

ここでは、本研究開発で用いる場所(施設)、設備、要員などを、その提供者を含めて箇条書きや表形式で規定します。本研究開発の成果の帰属手続きなどに影響しますので、前述の役割分担なども踏まえて規定することが必要となります。

ここで、自社の施設などを相手方に利用させる場合には、自社の施設利用に関する安全管理や秘密保持に関する規定も入れることを検討します。

また、自社の関係者が相手の施設や設備を利用する場合にも同様の配慮が必要ですので、相手側にどんな規定があるかも確認が必要となります。

また、契約当事者以外の第三者に本研究開発の一部を委託する場合で、その第三者が既に決まっている場合にはその名称を記載するなどして、後述の成果の帰属や秘密保持義務の規定に反映させます。

 

  • 費用負担

ここでは、本研究開発に必要な費用を甲乙でどのように負担するかを規定します。例えば、自分が行う業務分担にかかる費用は、各当事者が負担すること、共同で行う業務や分担が明確でない業務については協議して定めるなどと規定しますが、資金力や成果の帰属等によって、費用負担をどちらかが多く負担するという例もみられます

なお、契約当事者間で費用の支払いが生じる場合成果物の受け渡しと費用支払の時期の関係や、成果物の検収などの条件を明確に記載することと、費用支払い時期と消費税の関係なども確認して必要に応じて記載しておくことが重要です。(2019年のように契約期間内に消費税率が変更される場合や、複数年に渡る契約の場合は特に注意が必要です)。なお、遅延利息については、契約書内で予め固定した利率を設定するか、遅延発生時等の民法で規定される利率を適用するかも予め合意して記載しておくことが望ましいかと思います。

 

  • 研究開発期間とその間の進捗管理方法

 

タイムスパン スケジュール

研究開発期間は、成果報告書等の成果物の作成期間も踏まえて設定することが重要となります。特に会計年度末に期間がかかる場合や、年度をまたぐ場合などは、費用の経理処理も含めて、注意が必要となってきます。

また、必要に応じて、甲乙協議のうえ、研究期間を短縮または延長できるように規定する例も多く見られます。この場合には、変更した際に費用支払にも変更を生じるかなどを相手と協議のうえ、必要に応じて契約書内に記載することを検討します。

本研究開発の進捗管理については、定期的に行うのか、中間報告会のような形を取るのか、また進捗に関する記録の方法(議事録等)などについて規定しますが、詳細は別途協議事項とする場合もあります。

 

  • 研究開発報告書等の成果物(とその作成期限)

ここでは、本研究開発で得るべき成果物を記載します。通常は、研究開発の成果内容(データや得られた知見、製品仕様など)をまとめた報告書や試作品、プログラムなどを記載することになりますが、できるだけ具体的に記載しておくことをお勧めいたします。

報告書などはいつまでに、誰が作成するのかを取り決めておくことが、研究開発の費用負担に関する経理上の取り扱いの面などからも必要となります。

前述の研究開発期間の終了日が年度末に近い場合などは、この成果物の取りまとめの期限について、経理部門にも確認を依頼するのが安全かと思います。

  • 成果の特定方法とその帰属の決め方

ここでは、本研究開発の成果の特定(確認)方法と、成果の帰属、あるいはその決め方について記載します。多くの場合、成果は甲乙の共有を原則としますが、どちらか一方が独力でなした成果はその当事者に帰属すると決める場合もあります。

また、成果をなした当事者ではなく、それぞれの当事者が今後必要とする成果(例えば、本装置の試作品自体や本装置の中で自社が事業に使う技術など)によって、帰属を決定するという方法を適用する場合もあります。

上記の成果については、有体物(試作品や報告書などのモノ)だけでなく、それに付帯する、あるいは開発した業務・研究開発から別途発生する発明、ノウハウのような知的財産などの無形資産についても、それぞれ誰に帰属するのかを事前に決めておかないと、前述の費用との関係や、今後の成果の利用において思わぬ障害を生じる可能性が出て来ますので注意が必要です。

また、本契約で共同研究開発する前からお互いが既に持っている知的財産などが、開発の目的を達成する上で必要な場合には、その使用に関する取り決めも入れておく必要があります。

成果の内、発明等の知的財産については、特許出願などによる知的財産権の取得についても規定する必要が出てきます。例えば、甲乙共有の成果に基づき得られる産業財産権は共有かつ持分は均等と規定し、その後の項で、どちらが手続きを行うか、及び出願手続きやその後の権利保全に要する費用の分担(例えば「折半して負担」)を規定します。出願等の費用は持分に応じて負担することが一般的ですが、他の条件によっては、一方が負担する場合なども出てきます。

  • 成果の実施の方法

ここでは、本研究開発の成果をどのように実施(利用)するかについて規定します。共有の成果と、成果の帰属の取り決めの中でどちらか一方の単独所有となった成果の取り扱いの双方を規定しておく必要があります。

なお、前述のように、本研究開発の成果だけでなく、その成果を今後利用する際に、契約当事者が本研究開発の着手前から保有する知的財産等が必要になる場合があります。その場合には、こういった当事者が保有する既存の知的財産の利用に関しても規定する必要があります。

 

  • 秘密保持規定

ここでは、本研究開発の過程またはその前の検討段階も含めて当事者間交換する秘密情報の管理について規定します。

また、「成果の発表」に関する規定も必要となります。特に大学等の公的研究機関ではその成果の公表を責務としている場合がありますので、事前に書面によって相手の同意を得るように規定しておくことが、成果の産業財産権の出願や秘密情報管理の観点からも重要となります。例えば、成果を公表する際には、事前に相手の書面による同意が必要と規定し、さらに公表について相手に通知する期限を設ける場合もあります。

 

  • 契約自身の有効期限、その他の一般的な条項

ここでは、損害賠償、契約の有効期限、協議事項、契約に基づく権利や義務の譲渡等の制限、裁判管轄などについて規定します。例えば、契約の有効期限については、契約の締結日から起算して、所定の年数を決める方法や、更にどちらかからの終了の通知がなければ同一条件で継続するという、いわゆる自動更新の規定例を追加する方法などがあります。

この他に、有効期限は決めるが、お互い協議のうえ短縮や延長が出来ると記載する場合や、研究開発期間と秘密保持や公表、成果の取り扱いなど項目によって期間を分ける場合などがあります。この場合に、有効期間が秘密保持義務の期間や研究開発期間が含まれるように開始日も含めて十分にとってあるかの確認と、各項目ごとに適切な期間が設定されているか(自社にとって不利な条件になっていないか)の確認が必要となります。

また、免責事項や損害賠償については、その責任範囲や賠償額などの条件の範囲を明確にしておくことが、お互いの認識のズレを防ぐうえで重要となります。

 

  • 末文

末文では、本契約の成立を証するために、本契約の正本を2部(これは締結者数によって異なります)作成し、甲乙が記名押印のうえ、各1部を保有するという、ほぼ定形の文章のあとに、甲乙それぞれの締結者を住所、組織、締結者とその役職などを記載することが一般的です。

締結日をいつにするかということについては、企業が契約当事者の場合は、社内の決裁が降りた日以降で、お互いの記名押印が完了した日とすることが一般的ですが、場合によっては締結日を実際の押印完了日よりも遡る必要が出て来る場合もあるので、個別案件ごとの判断と、社内および相手方との手続き上のスケジュール確認が必要となります。

今回の新型コロナなどの事例からみても、思わぬアクシデントなどの影響を避けるうえで、できるだけ契約締結のスケジュールは余裕を持って組んでおくことを強くお勧めする次第です。

なお、今後は電子契約や海外企業との契約などによって、押印ではなく手書きのサインや電子署名なども利用される場面が増えてくる事が予想されますので、電子契約などのサービスの動向や、自社の取引先の電子契約に対する姿勢・取り組み動向などを把握しておくこともお勧めする次第です。

 

5.2    「ひな形」の利用について

委託契約 構成 条項 関連法規

契約書を作成する際に、自社製や契約先の持つひな形を利用するケースをよく見かけます。また、過去の同様なテーマや契約先との契約書、あるいはネット上などで公開されているひな形を利用することもあるかと思います。

この節では、上記のような契約書の「ひな形」を利用する際のメリットとデメリット(注意点)についてお話いたします。

 

(1)ひな形や既存の契約書を使うメリット(効用)

 

時間 年表契約書を一から作成するよりも速く進められるということが一番のメリットかと思います。

②入れるべき項目(特に基本的な項目)について、ヌケモレがないかというチェックシートもひな形の主要な機能かと思います。

③さらに、同じ相手と結ぶ場合、一度先方と合意した条件は次回も相手と合意しやすいという点で交渉が容易になるというメリットがあります。

 

チェックリスト

(2)ひな形や既存の契約書を使うリスクと注意点

①ひな形はあくまで契約する場合に取り決める項目や、その条件の最大公約数となるように作成されていますので、個別の案件ごとに、共同開発する目的に立ち返って、各項目の内容が適切化、他に規定すべき項目はないかをチェックする必要があります

②特に、昨今のAI・IoTなど、新技術やサービスが対象の場合や、お互いの事業環境が変化している場合には、注意が必要となります。

③また、前回は自分に不利な結果となっていた契約をベースに契約案を作成したり、その契約条件を前提に交渉を始めたりすると、今回も不利な条件で契約せざるを得なくなることにもなりかねません。

④さらに、知的財産権に関する法律(特許法や商標法、著作権法など)、独禁法や不正競争防止法など関連する法規制が改定されていた場合に、今のひな形や契約がそれに適合していないと、そのままは使えない場合も出てきます。

従って、個別案件ごとの検討に加えて、ひな形自体の見直しも適宜行い、改善していくことが必要です。

 

6.   共同研究開発契約書の条項間で気をつけるべきポイント

本章では、共同研究契約の各条項間の関係において、気をつけるべきポイントをお話いたします。

 

6.1   論旨・条件の一貫性の確保と確認

     契約内容修正による不整合

ある別の条文について交渉しながら修正している間に、その条文の条件が他の条文の条件と整合が取れなくなることがときどき(またはよく)起こります。

例えば、共同研究開発の内容や期間の変更得られる成果や費用に及ぼす影響を考慮して該当する条文も変更すべきところを修正し忘れたときや、別紙に規定する共同研究開発内容やスケジュールの詳細契約本文の間に齟齬が生じる場合などが該当します。

 

(1) 交渉中の実業務の開始

また、契約交渉している間に、秘密情報の交換が始まってしまった場合などの手当てなど、実態に合わせて契約案を修正する場合にも、契約全体を見ながら、各条項間で齟齬が出ないかを注意しながら進める必要があります。

また、個別の条文の条件交渉に気を取られるあまり、契約全体として事業上のニーズとの適合性から乖離していくリスクも出てくるので、都度、契約書全体の見直しを意識することが大切です。

 

6.2   期間や条文番号の齟齬

(1)条件変更時の注意点

共同研究開発期間、契約期間、締結日などの期間の一部を変更した際に、残りの期間の規定についても変更すべきところを変更せずに、実態と合わなくなるような事態が生じないかという点も注意すべきポイントの一つとなります。

 

(2) 条文の追加・削除時の注意点

条文の追加や削除による条文番号の変更は、特に契約書の文章中で他の条文を参照している部分の記載に影響を及ぼしますので、前述の契約の有効期限における個別の条文ごとの期間(残存期間)の規定の文章等に注意が必要です。

これらの齟齬・記載ミスは、お互いが内容に合意しているにも関わらず、その結果が契約書に反映されないということになり、後工程での手戻りなど、余分や業務の発生やスケジュールの遅れにも繋がりますので、最終合意に至った際に、再度お互いに内容の一貫性等と共に確認しあい、社内関係者にも確認を依頼することが万全を期す上で大切なプロセスとして実施することをお勧めする次第です。

 

以上、ざっくりとした説明で恐縮ですが、共同研究開発契約における契約交渉前の順、共同研究契約書の構成、各条項の概要とポイントおよび「ひな形」利用時の注意点、共同研究開発契約書の条項間で気をつけるべきポイントについてお話させていただきました。

次回、最終回は、契約交渉時のポイントと契約締結から契約後の管理まで、本トピックスのまとめ、参考文献および(当研究所のブログ)参考トピックスをお届けする予定ですので、お付き合いいただければ、大変幸いに存じます。

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