欧州でのビッグマックの商標権喪失にみる、知財活用時のリスクと対応方法のポイント

【今日のポイント】

特許だけでなく、商標も自社のブランド構築だけでなく、市場への参入障壁として有効活用したいもの。

ただし、知的財産権を第三者に権利行使する際には、相手からその権利は無効だとの反撃を受けることも多いので、事前の準備が欠かせません。

 

● マクドナルド、「ビッグマック」商標権喪失

2019/1/24の1日5分ビジネス英語表記のトピックスが掲載されていました。
欧州でマクドナルドが「ビッグマック」の商標を適切に使用していなかったとして、アイルランドを拠点とするファーストフードチェーンのスーパーマックスによる商標権の不使用取消の申立を認める判断をEUの特許庁が行ったというものです。

「ビッグマック」は当然ながら欧州でも販売されているのでこの審判は意外なものですが、

今回の記事で「商標の類似の活用」と「訴訟における証拠提出の巧拙の重要性」、「法律の抜け道と利用と対策」の3点に興味を惹かれました。

 

1.商標の類似の活用について

以下はざっくりとした説明(厳密な定義等とは若干ズレがあります)ですが、

商標権は、その商標自身(言葉、ロゴ、音、色彩など)と、商標を使う商品・サービスの分野の2つで規定され、その権利は「専用権(自分だけが使える権利)」と「禁止権(相手に使わせない権利)」があります。

専用権は、同一の商標を同一の商品・サービス分野で使うことに関するものですが、

禁止権の方は、

同一の商標×類似の商品・サービス分野、
類似の商標×同一の商品・サービス分野、
類似の商標×類似の商品・サービス分野、

についても、商標権を持っている権利者は、第三者の使用を禁じることが出来ます。

正確・詳細な解説>経済産業省の「商標制度の概要」*動画もあります。

今回のマクドナルドの場合は、この禁止権(類似の商標×同一の商品・サービス分野)を利用して、他社の市場参入を阻んだ例と言えるかと思います。

この利用自体は正当な商標権の権利行使なのですが、独禁法など他の法律で禁止している権利の濫用との間で、当事者同時に争いが生じることが日本でもあり、今回はその事例と言えるかと思います。

エアロネクストの知財戦略にみる一貫したブランド構築戦略の重要性
でもご紹介しましたように、

現在、知財権を使った自社の技術やブランドの保護は、スタートアップなどでも積極的に行っているところが出てきていますし、産業振興の面から、行政もバックアップしています。

今後、AI・IoTやDroneなどの分野などベンチャーやスタートアップが活躍している業界でも特許だけでなく、商標や意匠(デザインに関する知的財産)を活用したブランディングがグローバルに進んでいくとともに、最近、日本の公正取引委員会が問題視しているGAFAなどIT巨大企業も知財による囲い込みなどを進める可能性を感じます。

 

2.訴訟における証拠提出の巧拙の重要性

今回マクドナルドが、商標権の不使用取消訴訟(日本では3年間、欧州では5年間使用していないと取り消される)で敗訴した理由として、マクドナルド側が出したビッグマックを使用しているという証拠が、実際に商取引されている(ビッグマックという名前で販売されている)という証明には不十分と判断されたことが挙げられています。

欧州の商標権制度も日本と同様ならば、マクドナルドが自社だけでなく、他社に商標を使用許諾していても、商標の使用と認められるので、フランチャイズでのマニュアルや使用許諾の契約などにビッグマックが記載されていれば、使用しているという証拠になる可能性は高いかと思いました。

また、以下の記事も参考になるかと思います。

Big Macの商標登録が欧州で取り消された理由」栗原潔 (弁理士 ITコンサルタント 金沢工業大学客員教授)
マクドナルドは、実際に商標権を使ってスーパーマックスを牽制していたようですが、その際に自社の商標権を守るための証拠を準備するところまではあまり気を回していなかったのかも知れません。

ビジネスを行う際に、第三者の権利を踏むリスクとともに、権利行使する際の反撃に対する備えや、権利行使を警戒して第三者から先制攻撃を掛けられることも想定した日頃の用意の重要性を感じた次第です。

 

3.法律の抜け道と利用と対策

これは、実際に使わない商標をたくさんとっている例についてですが、

日本でも、2016年に特許庁が、そのようなことをしている人にではなく、それによって被害を受ける(あるいは受けそうな)人、企業向けに周知を出しています。

自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)
これは、自社とは関係ない商標を大量に出願している人が、出願後の手続き上の規定(分割出願)を悪用して、毎年1万件以上の商標を出願していたという事例です。

2018年に商標法が改正されたので、現在は、少なくともこの手法は使えなくなりましたが、

1,2で述べたような、知的財産権の活用と重要性が高まるに連れて、その法規制の抜け道を使う行為と法規制側の対策というスパイラルが今後も続いていくものと予想する次第です。

 

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