知的財産と知的資産経営の関係(その3)
● 構造資産と知的財産
前回は、知的資産のうち、人的資産と知的財産の関係を見ましたが、
ここでは、構造資産と知的財産の関係を見たいと思います。
前回や別の記事でも触れましたが、特許のような知的財産は、その
定形化された構造のゆえに人が持つ技術に関する知見やアイデアを
形式知化しやすく、人的資産を組織の構造資産に変換するのに優れた
ツールとなります。
いわゆる「型」の効用ですね。
● 「型」の効用
特許出願の明細書は、背景、技術上の課題、従来技術とその問題点
対応策、その効果、実際の利用方法例
という構造を持っており、さらにその構造、フォーマットは
何年もの間一貫しているため、データベースの構築とデータ検索等が
容易という利点を持っています。
更に自社内だけでなく、全国(かなりの部分は国際的にも)共通な
ため、他社との比較も容易であり、自社の技術面での位置や、他社
動向の把握などにも有効なツールとなります。
これは、ある程度大きく、歴史の長い組織でみることですが、
いま出ているアイデアが、実は昔の先輩たちが既に考えて特許出願
までしていたというような笑えない話も散見します。
過去の取り組みを有効活用するためにも、過去の特許情報を、
特許庁の特許情報プラットフォームや自社内のデータベース
など確認しておくことは必要なことかと思います。
(ノウハウとして秘匿すべき技術も、特許明細書と同じフォーマット
で記載して自社内のデータベースに保管しておくと、検索と活用が
やりやすくなりますね)
● 関係資産と知的財産
知的財産の活用法を関係資産の視点から見るならば、
一つには、自社の技術開発力のアピールという面があるかと思います。
これは既に多くの企業が行っていることであり、広告などに(特許
出願中)と記載したり、特許を取得した事自体をプレスリリースする
例も多く目にしますね。
また、提携先を探す、あるいは先方から探してもらうという点では、
自社の技術開発の方向や方針、注力している分野に関する情報提供
のツールにもなります。
ただ、特許情報として公開されるということは、競合他社に自社の
技術開発の動向を教えてしまうというリスクもありますので、
ノウハウとしての秘匿と特許出願のどちらを選ぶか、メリットと
デメリットの両面から慎重な検討が必要になります。
3つ目は、自社の交渉力を高めるために利用するという面であり、
これも競合とのクロスライセンスや、提携先に対するライセンスなど
広く行われている活用方法ですね。
かなり駆け足で知的資産の一部である知的財産と知的資産経営の
関係を見てきましたが、個別の事業毎に必要な技術とその使い方に
合わせて知的資産としての知的財産の活用方法を検討することが
必要であり、そのような事を意識して実際に行える人材もまた、
貴重な人的資産であり、そのような活動を支える仕組み自体も重要な
構造資産となり得るものだと考える次第です。