モノと権利の結びつきを考慮した情報収集と施策実施などの対応が更に求められる
【今日のポイント】
顔認識サービスの行政への提供と個人のプライバシー侵害の問題が報じられています。
「モノ売りからコト売りへ」やサービス化、デザインの活用などが進むにつれて、事業に複数の権利が付属するビジネスは今後も増えていく事が予想されるため、契約や事業分析においても、関係者が持つ複数の権利や各社の立場の把握と配慮がより必要と考える次第です。
【目次】
1.認識アプリのClearview AI、プライバシー侵害で提訴される
2.モノと複数の権利の結びつきへの配慮と契約の重要性
3.契約や事業分析における複数のプレーヤーの立場と持っている権利の重要性
1.認識アプリのClearview AI、プライバシー侵害で提訴される
2021/1/27のCNET Japanに表記の記事が掲載されていました。
(引用は『』でくくります。太字と改行は筆者挿入。以下同様。)
『Clearviewのアプリは、人々の写真をソーシャルメディアなどのサイトから取得した写真のデータベースと照合することで、人物を特定できる。』
この問題は他のメディアでも報じられています。
2021/03/23の1日5分ビジネス英語のトピックス。
顔認識のサービスが個人のプライバシー侵害として問題になる、それが特に行政サービスにおける問題となっているところに事態の深刻さが表れているかと思います。
ソーシャルメディアからのパーソナル情報との突き合わせという手法は、同社だけでなく、多くのサービスに適用され得るものだけに、同社への対応だけでなくその波及効果についても要注目と感じます。
2.モノと複数の権利の結びつきへの配慮と契約の重要性
今回の記事からは、
「モノと複数権利の結びつきを考慮した情報収集と、施策などの対応が更に求められる」事が予想されるかと思います。
データの重要性とそれに伴うリスク双方の増大は、色々なニュースで最近も取り上げられていますが、
経済産業省のAI・データ取引契約に関するガイドラインでは、
『データは無体物であり、民法上、所有権や占有権、用益物権、担保物権 の対象とはならないため、所有権や占有権の概念に基づいてデータに係 る権利の有無を定めることはできない(民法 206 条、同法 85 条参照)。
そして、知的財産権として保護される場合や、不正競争防止法上の営業秘 密として法的に保護される場合は、後記第 3-2-(2)で述べるように限定的 であることから、データの保護は原則として利害関係者間の契約を通じ て図られることになる。』
と、データは「利用権限」と言う権利として、その取り扱いを主に当事者同士で決めていく必要があると記載しています。
この利用権限(利用方法) は、
複数のプレーヤーが、それぞれ異なった目的を持って同じデータを異なる使い方で利用するため、データ自身だけでなくその使い方を含めて、ステークホルダーの利害関係を調整する事が必須となる点にデータ取引の特徴があるかと思います。
ただし、シェアリングなど「所有から使用へ」、バーチャルやカスタマーエクスピアレンスの様に「モノ売りからコト売りへ」の流れの中では、データ以外の他の商品も、複数の利用方法とそれに付随する個別の権利を取り扱う場面が増え、法規制だけでなく、契約などの当事者同士での対応も必要性が増してくるものと考える次第です。
参考文献
『「AI・データの利用に関する契約ガイドライン 1.1版」を策定しました』
2019/12/20経済産業省
3.契約や企業分析における複数のプレーヤーの立場と持っている権利の重要性
今回の記事からは、更に「複数権利の組み合わせを活用したマーケティングや競争力確保が更に進む」事も予想できるかと思います。
第一次産業では、日本の優れた品種改良の成果の保護が課題となっていますが、その実効性を上げるためのトレーサビリティ技術の発展は、国際競争力や、食糧セキュリティの面からも重要であり、昨今のブロックチェーンなどの活用を進める必要性も高まっていると感じます。
また、現在、デザイン分野の知的財産では、意匠法が大幅改正され、権利保護の範囲が広がった事で、商標など他の知的財産権との合わせ技で、自社のブランドや商品のデザイン、ロゴ、店舗の内装などの権利を保護できる環境整備が進んでいます。
商品やサービス開発時にその名称やデザインなども含めて複数の知的財産権で包括的に権利保護する動きと、
オンライン化により、サービスのグローバル化が加速する中で、データなど国境を越えて利用・流通する経営資源や個人の情報・財産などの権利保護に関する議論と施策が進み、その結果を活用したマーケティングや競争力確保の動きも活性化するものと考える次第です。
参考記事
『意匠法による保護と商標法による保護の戦略的活用』
(パテント2021Vol. 74No. 1日本弁理士会)
また、複数の種類の知的財産や知的資産が事業に関係すると言う事は、
自社に関係する知的資産を持つプレーヤーも広がっているということであり、
以下の記事にもみるように、それらのプレーヤーと関わる際の契約においても、相手と自社の持つの持つ複数の権利を視野に置いて、契約業務を進める必要性が高まっていると考えられます。
『HFMコンサルティングとウィズドメインが金融機関向け「特許評価活用サービス」の提供を開始』
2021/4/5の株式会社HFMコンサルティング、株式会社ウィズドメインのプレスリリース(@Pressより)
『金融機関が喫緊の課題としている「事業性評価に基づく融資運営」「不動産担保や保証に依存しない新たな融資運営」を実現するために最適な機能として、知的資産情報の効果的・効率的活用手法を「情報化=データベース化」「情報活用=イベントアナリシス」「業務運営=ソリューションモデル」という3つの観点から体系化した「情報活用ソリューションサービス」です。』
⇒知的資産の活用状況を企業評価に活用する試み。
オープンイノベーションや事業提携の支援への適用も期待できるかと考える次第です。
契約だけでなく、経営デザインシートや知的資産経営報告書の作成時、SWOT分析などの経営分析において、自社だけで無く、競合他社などの複数の種類の知財の情報も入れ、かつそれらを組み合わせた効果と自社や社会への影響について整理してみる事の重要性が更に高まっていると考える次第です。
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