freeeの「資金繰り改善ナビ」にみる提案型サービスへの顧客データの活用方法
【今日のポイント】
クラウド会計サービスで有名なfreeeの資金繰り改善ソリューションの提供開始。
提案型サービスへ、従来提供している会計サービスの顧客データをコアなリソースとし、その活用先を他社と連携して広げていくというプラットフォーム構築の一例と捉えられるかと思います。
このような戦略は、自社の商圏の範囲にスケールダウンすれば、地域の中小企業でも現在の顧客データを中心に新規市場に事業展開できる手法かと考える次第です。
● freee finance lab、 スモールビジネスの資金繰りを改善する 総合的な金融サービスの提供を開始– クラウド会計のデータをもとにした予測や、条件が事前にわかる融資サービスなどを「資金繰り改善ナビ」として展開
2019/6/24に freee株式会社は表記のリリースを公表しました。
(引用は『』でくくります。太字と改行は筆者挿入。以下同様。)
『freee株式会社(本社:東京都品川区、CEO:佐々木大輔、以下「freee」)の子会社であるfreee finance lab株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役:武地健太、以下「freee finance lab」)は、個人事業主や中小企業などのスモールビジネスに向け、クラウド会計データをもとに、ユーザーごとに最適化された資金繰り改善を提案する「資金繰り改善ナビ」(https://www.freee.co.jp/finance/)の提供を本日開始しました。
「資金繰り改善ナビ」では、「クラウド会計ソフトfreee(以下、会計freee)」の会計データを活用し、先々の資金繰りの予測機能や、借りられる条件が事前にわかる、ユーザーの状況にあわせた融資サービスなどを提供します。』
上記の「資金繰り改善ナビ」の主要なサビースとして、同社は以下の3点を挙げています。
『①「オファー型融資」https://www.freee.co.jp/finance/business-loan
「オファー型融資」は、freee finance labと金融機関が連携して提供する融資サービスです(特許出願中)。freee finance lab が融資を受けられる可能性の高い「会計freee」のユーザーに対して借入可能額や金利などの借入条件を試算し、提示(オファー)します。オファーされる借入条件は、freee finance labがビッグデータに基づいて作成した試算ロジックと、個々のユーザーの財務データをかけ合わせて分析・試算した結果をもとに表示しています。
②「請求書ファイナンス」https://www.freee.co.jp/finance/invoice-finance/
「請求書ファイナンス」は、「会計freee」に登録されている請求書などの売掛債権を、オンラインで現金化することができるサービスで、2019年7月中に開始を予定しています。「請求書ファイナンス」では、オンラインでの請求書買い取りサービスを提供しているOLTA株式会社(以下、OLTA社)と提携して提供します。
③「freeeカード」 https://www.freee.co.jp/finance/card/saison-platinum/
freeeが提供しているスモールビジネス向けクレジットカード「freeeカード」のラインアップとして、新たにアメリカン・エキスプレスRブランドでの「freee セゾンプラチナ・ビジネス・アメリカン・エキスプレスR・カード」が加わります。6月24日から先行案内の登録受付を開始し、カードの発行開始は8月を予定しています。今後、「会計freee」 のデータにもとづき試算した、「freeeカード」にて利用できる限度額が「資金繰り改善ナビ」内で提示される機能の実装を予定しています。』
提案型の融資や、売掛債権の現金化、クレジットカードの利用限度額の提示などのサービスを提供するとのこと。
中小企業の資金繰り改善への貢献に期待するところは大きいものと思われます。
●倒産する中小企業の約半数が黒字倒産、資金繰りに課題
同社の今回のサービスリリースの背景には、以下の中小機構のサイト「J-Net21」のトピックスにもあるように、倒産する中小企業の約半数が黒字倒産であり、資金繰りが大きな経営リスクとなっていることがあります。
『黒字倒産に気をつけろ! 利益が出ていても倒産するリスクはあります」
『2012年に倒産した企業のうち、黒字企業の割合は44.7%(東京商工リサーチ調査結果より)と、約半数の会社は黒字で倒産していたことが分かります。主な原因は、売掛金の未回収によるキャッシュ不足、過剰な在庫、資金調達不足です。』
上記のような資金繰り改善へのニーズに対して、freeeのサービスは、顧客の資金ニーズ予測に従来同社が提供している会計サービスの会計データを活用し、
さらに、各機能とサービスごとに、カード会社などの専門の企業と連携することでソリューションを提供しています。
いわば、「会計を軸にしたプラットフォームビジネス」であり、企業連携、ユーザーへのオファー(リコメンド)型サービス、顧客データの有効活用や決済などの面では、アマゾンとの類似点も多く見られるかと思います。
逆に相違点に目を向けてみれば、アマゾンなどのデジタルプラットフォーマーとの差別化やポジショニングのヒントにもなりますね。
このような戦略は、自社の商圏の範囲にスケールダウンすれば、 地域で顧客データを収集して地元企業間や行政間とで連携し、活用するスキームの参考にもなるものと考える次第です。
● 本ブログの関連トピックス
・『「オプティムとみちのく銀行の提携にみるあらたな「集中と分散」』
みちのく銀行、AI・IoT戦略的包括提携を締結し、地方銀行におけるAI・IoTの活用や、スマート農業の普及、地域産業のAI・IoT化を推進している株式会社オプティム。
地域の金融機関等との連携を進めつつ、スマート農業ビジネスで主要な位置を押さえる「集中と分散」の使い分けの例としても参考になるかと思います。
・『AIプラットフォームのベンダー比較にみる、システム導入時のリスク管理と顧客囲い込み』
サービスやシステムを導入する際に、自社の特定の事業や業務だけで閉じて使うのか、社内全体や場合によっては取引先とも共有して利用するのかなど、その使い方、使う範囲によって特定のスペックやフォーマットに縛られるリスクを判断することが必要になります。
これは、自社のサービスや商品の中に組み込むシステム・ソフトなどにも言えることですね。
その裏返しで、自社のサービスや商品を開発する際には、お客様を囲い込むメリットを考えた独自仕様の利用と、コスト面や汎用性、性能の拡張などの面で汎用的なリソースを使うことのメリットの双方を考慮しながらバランスを取ることが必要になってきます。
・『オプティムのAI・IoT・ビッグデータプラットフォームにみるポジショニングの取り方』
ベンダーにとらわれずに済むインターフェースサービスの利用は、プラットフォームを利用する際のポジショニングの重要な選択肢となります。
オプティムのように、ユーザーニーズとベンダーのシーズを自社のサービスでマッチングさせるという、インターフェースサービスは、多様化するお客様のニーズに応える場合に、大変参考になるものと考える次第です。
・『ミロク情報サービスの市場展開にみる地域密着型の提携方法』
ミロク情報サービスは、地方の金融機関や会計事務所を通じて地域の企業にリーチしています。
また、同社は、金融機関や会計事務所の紹介だけでなく、「ERPシステム」で中堅・大企業にも直接販路を拡大しています。
これは、同社がトータルソリューションの提供の体制を持っているので、色々な連携が可能になっているということかと思います。
事業連携において、複数の選択肢を確保する方法としても参考になるものと考える次第です。
★ 以下のランキングに参加しております。ぜひ、クリックよろしくお願い申し上げます(^^)。