エアロネクストの知財戦略にみる一貫したブランド構築戦略の作り方のヒント
【今日のポイント】
事業分野や持つべき資産を絞りつつも、ブランドのように優先して構築すべき自社資産については一貫した知財戦略を実行しているドローン企業。
事業戦略と知財戦略の連動や、戦略の一貫性の重要性を再認識した次第です。
● 産業用途へ広がるドローン ビジネスの裏に知財あり
エアロネクスト影山剛士さんvsDRONE iPLAB中畑稔さん 注目スタートアップが語る未来
2019/1/16のMETIジャーナルに表記の記事が掲載されていました。
(引用は『』でくくります。太字と改行は筆者挿入。以下同様。)
『ドローン(小型無人機)をビジネスに活用する動きが広がっている。
エアロネクストの開発機はプロペラが揺れても機体がぶれないのが特徴で、耐風性や安全性といったドローンが直面する長年の課題を克服したとして注目されている。
同社でライセンスを担当する執行役員・影山剛士さんと、ドローンにまつわるスタートアップの知的財産戦略を請け負うコンサルティング企業「DRONE iPLAB」代表の中畑稔さんが、新たな産業分野に知財がもたらす可能性について語り合った。』
と、2019年1月に「ドローンビジネス×知財」をテーマに10日、ベンチャーカフェ東京(港区・虎ノ門)で開催されたトークイベントにおいて、
以前「ドローン企業の「コト売り」にみる「尖ることの重要性」」でご紹介した、ドローンの開発を行っている株式会社エアロネクスト の知財戦略をインタビュー形式で掲載しています。
上記記事でも、エアロネクスト社は、「技術(開発力)」で尖っていくことで自社の強みの構築を図っていることをお伝えしましたが、今回の記事では、知的財産の面から同社の戦略が語られており、大変参考になりました。
● ブランド構築から逆算して立てた知的財産戦略
今回の記事で、エアロネクスト社の影山氏は、
『当社の強みは『4D Gravity』という重心制御技術です。ドローンの産業利用を進める上で、軸がぶれないことは極めて重要になります。産業用ドローンとして、これまでに3機種を開発していますが、いずれもこの技術が根底にあります。まずは搭載したカメラに機体が映り込むことなく、360度VR撮影できるタイプ、もうひとつは重量物を傾けず高速かつ遠距離まで輸送するタイプ。さらに長いアームの先にカメラやセンサーを付けることでドローン本体を対象物に接近させることなく狭い領域や気流が乱れた領域での点検や測量を可能にするタイプです。当社は創業当初から知財重視の経営戦略を打ち出しており、約80件の特許が出願・登録されています。
進行役・特許庁松本要氏(以下、松本)
特許だけでなく、ロゴや「4D Gravity」も商標登録されていますよね。狙いは。影山 コンピューターの世界で米インテルが「インテル・インサイド」でブランド訴求する戦略を展開したように『4D Gravity』を広く世界に技術ライセンスするための戦略のひとつです。』
と、自社の強みを明確にしたうえで、その強みを守り、標準化などを見据えて特許網(特許ポートフォリオ)を構築するための特許戦略と、強みを活かしたブランド構築のための商標戦略を展開しています。
● 中国ドローン企業のデザイン戦略
同記事では、同業他社でドローン最大手の中国企業についても、
『(ドローン最大手である)中国のDJIは日本でも積極的に特許出願しており、しかも特許だけでなく、意匠の登録件数も数多いことからもデザイン重視の開発姿勢がうかがえます。機体全体のデザインだけでなく、特徴的なデザインを対象とする「部分意匠」も少なくありません。バッテリーやプロペラなど、およそ取り外し可能なパーツについては網羅的に権利取得している事実は注目すべき点でしょう。』
と、特許に加えて意匠も積極的に出願していること、また取り外し可能なパーツについて部分意匠もとっているなど、デザイン面も重視した知的財産戦略を取っていることを紹介しています。
「内閣府の知財戦略検討会にみる「モノ売りからコト売りへ」の流れと知的資産」
でも、ユーザーに提供する価値をデザインすることの重要性についてお伝えしましたが、利便性などだけでなくその形、美観などもユーザーが感じる価値の中で大きな位置を占めていること、その価値のデザインに加えて、ユーザー、顧客に価値を伝えるブランドの重要性も増して来ていることが窺えるかと思います。
● 尖ることと、ブランドを構築するための一貫した全部戦略の両立
自社のリソースが限られる中小企業では、とこに自社の経営資源を投入すべきかは、大手企業以上に重要な課題となりますが、
その中でも、ブランドや信頼性などの、自社が優先的に構築し強化すべきものについては、エアロネクスト社の知財戦略のように、一貫した戦略を持って、そこに経営資源を集中させる「全部戦略(必要な打ち手を全て順々に打っていく)」が重要になるかと思います。
事業分野や自社で保有する資産の絞り込みと、ブランドのような持つべき資産の構築には必要な要素を全て盛り込む全部戦略の両立を図るうえで、知的資産経営についても、人的資産、構造資産、関係資産を全て連携させて、価値創造ストーリーを描くことの重要性を改めて認識した次第です。
● 関連する本ブログのトピックス
・「ドローン企業の「コト売り」にみる「尖ることの重要性」」
技術開発に特化しつつもそこで幅広く展開していく、エアロネクスト社のご紹介。
・「内閣府の知財戦略検討会にみる「モノ売りからコト売りへ」の流れと知的資産」
AI・ビッグデータやプラットフォームなどの新技術やインフラに加えて、「価値と何か」の部分にも目を向けて、多様な価値観や、価値あるいは価値観の変化というものにも配慮した社会システムに目を向け、
さらにその価値を生み出す人材だけでなく、そのような人材を「応援する人材」にも着目して、応援する人材自身を支援する仕組みを考えていくという産業支援策の流れのご紹介。
・「GEの動向にみる、モノ売りからコト売りへの流れにおける価値のデザイン競争」
価値のデザインそのもの、あるいは価値をデザインする力をM&Aという形で取り込むことでその競争力を急速に拡大しているGAFAと、コト売りに転換しつつも苦境に立っているGEとの比較によるスピード競争について。