iPS医療に考える全体観を持ったリスクマネジメントの重要性と健康経営
【今日のポイント】
現在は社会復帰が困難な脊髄損傷をiPS細胞で治療する研究が日本で進んでいます。
先進医療は高額ですが、社会復帰による経済的な効果も含めた全体観を持つことが必要となります。
うつ病などメンタル疾患についても同様ですね。
生産性向上や働き方改革への取り組みにおいても、費用対効果を大きな枠組みで捉える全体観が重要と考える次第です。
2019年2月18日の日経新聞に表記の記事が掲載されていました。
(引用は『』でくくります。太字と改行は筆者挿入。以下同様。)
『厚生労働省の専門部会は18日、iPS細胞を使って脊髄損傷を治療する慶応義塾大学の臨床研究計画を了承した。
iPS細胞から作った神経のもとになる細胞を患者に移植し、機能改善につなげる世界初の臨床研究となる。
2019年夏にも始まる見通しだ。目や心臓、脳の神経、血小板に続き、実際に患者に移植する再生医療の研究が広がっている。』
この内容は2019/2/27の1日5分ビジネス英語
「日本、世界初の脊髄損傷治療の実験を許可」
でも採り上げられていました。
『実験は、最近脊髄を損傷して感覚を失った、または体が動かなくなった18歳以上の4人の患者に対して行われる。
約200万個のiPS細胞が患者の損傷した部位に注入され、治療中に維持される。
その処置の安全性と有効性が手術の1年後に確認される。
患者は四肢の運動調節を取り戻すために、リハビリを受ける。
実験の成功後、約100,000人の患者がその治療から恩恵を受ける。』
患者の方やご家族の負担軽減は勿論のこと、社会復帰による経済的な側面からも期待が高まります。
● 先進医療の経済的影響
経済的な側面から今回の記事を見ると、先進医療は高額なため、健康保険制度にも何らかの影響を及ぼすことが考えられますね。
一方で、患者の社会復帰や継続的な治療の短縮による経済効果も考える必要があります。
以下の論文のように、脊髄損傷を受けた方は年間約5000人発生し、現在の患者総数は、10万人~20万人とのこと。
また、現時点で、脊髄を再生させ麻痺を回復させる治療方法が無いため、社会復帰ができず、経済的損失は年間3000億円以上に昇るとのことです。
「重度頸髄損傷者の生活の再編成プロセスの分析」
千葉俊之,木内貴弘 東京大学医学系研究科社会医学専攻医療コミュニケーション分野 日本ヘルスコミュニケーション学会雑誌 2015, 6(1): 19-33『頸髄損傷とは,中枢神経である脊髄がなんらかの外傷により損傷を受け,脊髄の機能が一時期にすべて麻痺し,慢性期になっ ても麻痺がのこると四肢麻痺となる.
日本全国では年間約 5 千人の新規脊髄損傷者が発生し,その経済的損失は3千115億円と いわれ,巨額の直接・間接の損失が推定さ れている.』
「急性期脊髄損傷における臨床評価に関するガイドライン(案)」
『脊髄損傷は本邦で年間約 4,000~5,000 人が受傷、その難治性により現在の患者総数は 10 ~20 万人以上といわれている。
外傷により脊髄が損傷されると、四肢の運動・感覚麻痺、 膀胱・直腸機能障害等、種々の症状を呈する。
現在の医学では損傷した脊髄そのものを復元させることは不可能であり、
治療法は脱臼・骨折した脊椎を安定化させる手術及び残存 した機能を最大限に活用するためのリハヒ゛リテーションのみが行われ 3, 4)、
推奨すべき治療法が存在しないのが現状である。既存のいずれの治療法も損傷された脊髄を再生させ麻痺 を回復させる作用はない。
したがって、脊髄損傷後の麻痺の予後は受傷後早期の組織損傷の程度によりほほ゛決定されてしまっているといえる。』
今回のIPS細胞による治療による機能回復と社会復帰の可能性は、経済的な効果も大きいことが窺えます。
● うつ病などがもたらす大きな経済的影響
以下の発表や記事に見るように、
経済的な影響としては、ご案内の通り、うつ病などのメンタル疾患も社会課題となっています。
「自殺・うつ対策の経済的便益(自殺やうつによる社会的損失)」
2010/9/7 厚生労働省
『推計結果のポイント
自殺やうつ病がなくなった場合の経済的便益(自殺やうつによる社会的損失)の推計額は、
(1) 2009年の単年度で約2.7兆円
(2) 2010年でのGDP引き上げ効果は約1.7兆円
となった。(注)単年度の推計額は、その年に自殺で亡くなった方が亡くなられずに働き続けた場合に得ることが出来る生涯所得と、うつ病によって必要となる失業給付・医療給付等の減少額の合計。』
「休職者ひとりの損失は年収の3倍!産業医選びの失敗が大損失を招く」
2017.07.06
「「痛み」の経済損失は約1兆9千億円」
2018/8/27
心理面、精神面での健康は、本人や周囲の方だけでなく、労働力確保や、企業の生産性向上などの面でも大きな課題であることが明らかになってきたことを感じます。
● 治療から予防への流れ
私も入っている樺沢塾の主催者である精神科医の樺沢紫苑さんは、自身のビジョンとして、
「脳科学、精神医学の知識を正しく伝えることで、日本のうつ病等の精神疾患の患者、自殺者を減らすこと」
を掲げています。そのために、治療よりも予防に重点をおき、情報発信を続けておられます。
36万部を超えたベストセラー「アウトプット大全」の次には、「人生うまく行く人の感情リセット術」を上梓し、
より直接的にメンタルヘルスについて、私達が実行可能な予防策を提示しています。
「「人生うまくいく人の感情リセット術」を読んで」
また、健康と病気の状態の間に「未病」という状態があり、未病から健康に戻ることが比較的容易だが、一旦病気になってしまうとそこから健康状態に戻ることはかなり困難(不可逆性が高い)として、未病の段階での生活習慣の改善などの対応を重視しています。
● 全体を俯瞰したリスクマネジメントから健康経営®を考える
上記のように、先進医療の是非を見る場合にもそのコストと、効果の双方について、大きな視野で捉え、全体を俯瞰し、予防(発生防止)や損失軽減を考えることが必要となります。
企業単位でも、目に見えにくい損失やリスクを可視化すると共に、自社の経営の中長期まで含めた全体観の中でリスクマネジメントを行うことが必要ですね。
その中で健康経営や、知的資産経営の人的資産への対応を検討・実施することが大切であり、その手段として、知的資産経営報告書を作成して自社の事業の流れ全体をみることが有効と考える次第です。
※>「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
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