公取委のECモール調査にみるエコシステム利用時のリスク

【今日のポイント】

大手ECモールに不満を持ちつつも依存せざるを得ない状況というのは、ある意味下請け企業と共通のリスクを抱えているとも言えるかと思います。

このような、他社のエコシステムに組み込まれたときのリスク低減には選択肢を増やす工夫、逆にエコシステムの中で有利なポジションを取るためにはそのエコシステムの中のボトルネックとなる部分を自社の強みで押さえられないかの検討が必要になってくると考える次第です。

● アマゾン調査を打ち切り 公取委 全面ポイント撤回で

2019/4/11の日本経済新聞に表記の記事が掲載されていました。

(引用は『』でくくります。 太字と改行は筆者挿入、以下同様)

『公正取引委員会は11日、アマゾンジャパン(東京・目黒)が検討していた全商品へのポイント付与を巡る独占禁止法違反の可能性についての調査を打ち切ると発表した。同社が10日、ポイントを付与するかどうかは出品事業者の任意とする方針を示したことから「違反の懸念がなくなった」と判断した。』

違法性の判断はしなかったとのことですが、アマゾン側も違法と判断されるリスクを回避するための撤回かと感じた次第です。

 

● 国内の旅行サイトやプラットフォーマーへの不満

ご案内のように、GAFAのような海外の巨大IT企業以外にも、公正取引委員会は、楽天トラベルなど国内のプラットフォーマーについても調査を行っています。

「(平成31年4月17日)デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査について(中間報告)」
公正取引委員会

『公正取引委員会は,平成31年1月に開始した「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査」の一環として,

①オンラインモール運営事業者の取引実態に関するアンケート調査,
②アプリストア運営事業者の取引実態に関するアンケート調査,
③デジタル・プラットフォームサービスの利用者(消費者)に対するアンケート調査を実施し,別添のとおり,中間報告を取りまとめました。

 今後,中間報告で取り上げた分野を含め,デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態の更なる把握を行い,独占禁止法・競争政策上の考え方の整理を進めていきます。』

さらには、デジタル・プラットフォーマーに関する取引実態や利用状況についての情報提供を事業者や消費者に呼びかけています。

情報提供窓口はこちら↓
https://www.jftc.go.jp/cgi-bin/formmail/formmail.cgi?d=digitpf

公正取引委員会の一連の動きについて、

2019/4/15の夕刊フジ zakzakでは、

「旅館・ホテル悲鳴…大手旅行サイトが『最安値圧力』のウラ 価格競争には不満も「なければ困る」ジレンマ」
の表題で、公取委が大手旅行予約サイトの「楽天トラベル」「ブッキング・ドットコム」「エクスペディア」の関連会社に立ち入り調査を行ったことを報じています。

価格以外の横並び比較に使える指標や、宿泊客の個別ニーズ毎に細かく提案できる紹介機能などが求められている様に感じた次第です。

また、2019/4/18のECのミカタでは、
「多くのEC事業者が不満 公取委が大手ECモールの取引慣行などに関して実態調査」

との題で、多くの小売店が、大手楽天等の大手ECモールに不満を持っている結果が出たことを報じています。

ECにおけるレイヤーマスターと小売店の力関係が如実現れていますが、

やはりコスト転嫁と取り扱い結果にたいする説明不足、選択肢の少なさが大きく影響していると感じます。

● 他社のエコシスに組み込まれるリスク

上記の小売店は、不満を感じつつも、大手ECモール経路の売上比率が大きいことから、不利な条件を飲んででも利用し続けなくてはならないとの回答を寄せています。

これは、他社のエコシステムに組み込まれ(取り込まれ)たときのリスクであり、また自社の選択肢を広げておくことの重要性も示唆しているかと思います。

「提携事業関係マネジメントシステム国際規格にみるエコシステム構築競争」
や、
「プラットフォームビジネスにみるエコシステム間の競争」
で、お伝えしましたように、

プラットフォームビジネスに限らず、多くの企業がエコシステムの構築を競っており、中小企業もその中に取り込まれていく流れが強まっていると感じます。

このような流れにどう対処して良いかを考える必要がありますが、

以前、
「オプティムのAI・IoT・ビッグデータプラットフォームにみるポジショニング」
の中で、

オプティム社のAI・IoTプラットフォームの強みとして、多くの大手ベンダーサービスと連携出来るので、一つのベンダーにとらわれる(ロックインされる)ことがないという点を挙げて、
同社のポジショニングのとり方の巧みさや、このようにベンダーにとらわれずに済むインターフェースサービスの利用は有力な選択肢となり得ることをお話しましたが、

自社の事業の流れの中で、仕入先、開発・製造、流通経路、マーケティング、プロモーション(広告)など各段階に選択肢が殆ど無いという意味でのボトルネックを作らないことも、今後のリスクマネジメントや経営の自由度を確保するうえで重要です。

その方法としては、

「アイラ株式会社のサービスポータル基盤および地域生活支援ポータルサービスにみる「アマゾン以外のエコシステムの可能性
でお話した、

単に他社のプラットフォームを使うというだけでなく、複数のメーカーのプラットフォームに対応したサービス基盤を新たに上乗せし、「自社のエコシステム」を形成することで、例えば自社の販路にアマゾンや楽天を利用するような他社のプラットフォームの利用と比較して、自社の強みを活かしつつ、複数の企業を選択できるポジションを取り、自社のエコシステムの構築につなげていくことを目指すというのも選択肢の一つかと思います。

また、「富士通の戦略解説にみる自社が押さえるべきボトルネック」
でもお伝えしたように、自社が押さえる部分が、そのエコシステム、あるいはバリューチェーンにおいてボトルネックに当たる部分ならば効果も大きくなりますし、

バリューチェーン、エコシステムが複雑化する中では、このボトルネックも一箇所ではなく複数に増えてくるため、中小企業でも小さい規模で押さえられる部分が出て来る可能性も高くなってくるので、自社が入っているエコシステムの中で、自社が押さえるべきボトルネックを探すというのも一つの方法かと思います。

そして、自社のリスク回避とエコシステムの中で有利な立場を得るための検討ツールとして、知的資産経営報告書の価値創造ストーリーも役立つものと考える次第です。

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