『武器になる哲学』に学ぶ、思考プロセスのトレースと応用
【今日のポイント】
本書は、哲学の歴史順ではなく、実践で使いたい場面(ケース)ごとに哲学から学べる思考方法を紹介しています。
自分のものの見方や考え方をブラッシュアップしたい、思考力を磨きたいという方、
ネット社会で多くの情報に接する中で、その解釈や利用のスキルを磨きたい方、
得た情報行動に移すためのを知識や知見に高める方法を学びたい方にお薦めの一冊です。
● 山口 周氏の『武器になる哲学』
最近、『武器になる哲学人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50 2018/5/18山口周(著) (Kindle版)』
を読みました。
このブログでもご紹介している
や、
の著者、山口周氏の哲学を実際の仕事やプライベートも含む私たちの活動に活かすための実践的な方法を50のコンセプトに整理して、その「使用方法」(活用場面)毎に紹介しています。
本書の構成は以下の通りです。
(引用は『』でくくります。太字と改行は筆者挿入。以下同様。)
『第1章「人」に関するキーコンセプト「なぜ、この人はこんなことをするのか」を考えるために
・ロゴス・エトス・パトス――論理だけでは人は動かない(アリストテレス)
・悪の陳腐さ――悪事は、思考停止した「凡人」によってなされる(ハンナ・アーレント)ほか
第2章「組織」に関するキーコンセプト「なぜ、この組織は変われないのか」を考えるために
・悪魔の代弁者――あえて「難癖を付ける人」の重要性(ジョン・スチュアート・ミル)
・解凍=混乱=再凍結――変革は、「慣れ親しんだ過去を終わらせる」ことで始まる(クルト・レヴィン)ほか
第3章「社会」に関するキーコンセプト「いま、なにが起きているのか」を理解するために
・アノミー――「働き方改革」の先にある恐ろしい未来(エミール・デュルケーム)
・パラノとスキゾ――「どうもヤバそうだ」と思ったらさっさと逃げろ(ジル・ドゥルーズ)ほか
第4章「思考」に関するキーコンセプトよくある「思考の落とし穴」に落ちないために
・シニフィアンとシニフィエ――言葉の豊かさは思考の豊かさに直結する(フェルディナンド・ソシュール)
・反証可能性――「科学的である」=「正しい」ではない(カール・ポパー)ほか』
● 本書からの気づき
本書からの気付きをいくつか以下にご紹介します。
・『アリストテレスは著書『弁論術』において、本当の意味で人を説得して行動を変えさせるためには「ロゴス」「エトス」「パトス」の三つが必要だと説いています。』
⇒ロゴス=論理、エトス=倫理、パトス=情熱の3つともが人の行動を変えさせるために必要とのアリストテレスの言葉。ただし、山口氏は、
『人を動かすためには「ロゴス」「エトス」「パトス」の三つが必要だというアリストテレスのこの指摘については、その過剰な使用がもたらす危険性も含めて、リーダーという立場に立つ人であれば知っておいて損はないと思います。』
と、レトリックなどの言葉によって人を動かす危険性も考慮しながらバランスを取ることを勧めています。
これは、人を動かす際の言葉と自分自身の行動のバランスの面だけでなく、自分自身が人の言葉(読書やネットのニュースなども含めて)に反応する場合にも意識する事が必要かと思います。
また、自分で自分の行動を変えようとする際にも参考になると感じた次第です。
・『これはサラリーマンが家庭と職場と個人という三つの人格要素、ユング的に言えばまさに「仮面=ペルソナ」ですが、を使い分けることが難しくなってきていることにもつながっています。』
⇒ユングの『ペルソナ──私たちは皆「仮面」を被って生きている』という言葉について、現代では、携帯電話(ネット)で常時他者とつながっていることで、複数のペルソナ(山口氏はそのペルソナを使う場所について「サイロ」という言葉も使っています)の使い分けが困難になっていると論じています。
そして、その対処法として、個々のペルソナ(サイロ)の中で自分にとってストレスレベルの高い居場所(サイロ)から逃げるという、「使い分けから取捨選択へ」の検討を進めています。
この様な、居場所の取捨選択のためには、普段から視野を広げて、世の中には今自分がいる居場所以外の場所=選択肢もある事を知っておくことと、
『ライフシフト』が説く「変身資産」を持つことの重要性も示唆していると考える次第です。
・『ドーパミンシステムは、予測できない出来事に直面したときに刺激されます。予測できない出来事、つまりスキナーボックスの実験条件=④の場合、ということです。ツイッターやフェイスブック、メールは予測できません。これらのメディアは変動比率スケジュールで動いているため、人の行動を強化する(繰り返しそれを行わせる)効果が非常に強いのです。』
⇒スキナーの『報酬──人は、不確実なものにほどハマりやすい』との説から、なぜSNSやギャンブルに人はハマりやすいのかを説いています。
自分自身がその様なリスクを意識することに加えて、組織運営などにも適切な範囲で不確定要素を加える事で、モチベーションを上げられることを示唆しているかと思います。
また、いわゆる「ゲーミフィケーション=ゲーム化」の効用とも通じるものがあり、自他のモチベーション活性化に活用できると考えています。
・『マズローの考察によれば、成功者中の成功者である「自己実現的人間」は、むしろ孤立ぎみで、ごく少数の人とだけ深い関係をつくっている。このマズローの指摘は、ソーシャルメディアなどを通じてどんどん「薄く、広く」なっている私たちの人間関係について、再考させる契機なのではないかと思うんですよね。』
⇒マズローによる、彼の有名な五段階欲求の最上位「自己実現」を満たしていると考える人物の事例研究の結果から、現代のSNSなどによるネットワークの変化に警鐘を鳴らしています。
ネットでの繋がりを、リアルの繋がりをつくり、維持するツールとして使う方法(リアルが主、ネットが従)の有効性を示唆していると感じます。
・『悪魔の代弁者──あえて「難癖を付ける人」の重要性』
⇒異質な意見を述べる人と、それを許容する組織風土や仕組みの重要性を、山口氏は、
『集団における問題解決の能力は、同質性とトレードオフの関係にあります。心理学者のアービング・ジャニスは、「ピッグス湾事件」「ウォーターゲート事件」「ヴェトナム戦争」などの「高学歴のエリートが集まり、極めて愚かな意思決定をした」という事例を数多く研究した結果、どんなに個人の知的水準が高くても、同質性の高い人が集まると意思決定の品質は著しく低下してしまう、ということを明らかにしました。』
と研究例をひいて述べています。
その方法についても、キューバ危機での米国の対応検討を例に詳しく解説しているので非常に参考になりました。
組織の柔軟性は寛容性を内包している事を改めて感じた次第です。
・『反脆弱性──「工務店の大工さん」と「大手ゼネコンの総合職」はどちらが生き延びるか?』
⇒組織としては、意図的な失敗を組み込む事、小さな組織、あるいは個人レベルでのキャリアについては複数の組織に参加して、それぞれの場所で信頼や信用を積み上げ、人的資本や社会的資本を分散させておくことを進めています。
いわば、キャリアのポートフォリオ理論であり、知的資産経営においても意識すべき社会の兆候かと考える次第です。
この他、格差や認知に関する問題とその対処法、私が本ブログの中で良く使っている『螺旋的発展』の視点などについてもわかりやすく解説されています。
● 哲学者の思考プロセスをトレースする
本書や、山口氏の他の著作でも述べられている、哲学者のアウトプットよりも、その思想の過程に着目して学ぶべきとの言葉は、思考の結果はよりも思考プロセスの方が陳腐化しにくく、汎用性も高いということかと思いますが、
陳腐化と汎用性という点では、情報と情報源の関係にも似ているかと思います。
さらに思考の意識、姿勢から学べることも多い事は、情報取得における意識や姿勢(アウトプットなどの目的重視)が重要なこととも共通しており、この点は、樺沢紫苑氏の近著
『インプット大全』 でも語られていることと共通しています。
●こんな人にお薦め
本書は、哲学の歴史順ではなく、実践で使いたい場面(ケース)ごとに哲学から学べる思考方法を紹介しています。
自分のものの見方や考え方をブラッシュアップしたい、思考力を磨きたいという方、ネット社会で多くの情報に接する中で、その解釈や利用のスキルを磨きたい方、得た情報行動に移すためのを知識や知見に高める方法を学びたい方にお薦めの一冊です。
なお、以前の本ブログトピックス
でご紹介した、
や
も併せてお薦めする次第です。
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