培養細胞によるミルク生産に考える、持続可能性の流れと知財の囲い込み対応

【今日のポイント】
培養した細胞から人工乳を作るというシンガポールのスタートアップ。
既存の酪農家にとっては潜在的な競合とも言えますが、自社商品に関する知財が他分野で開発されるリスクを示唆するとともに、このような取り組みを自社で事業提携などを活用して行うことで、市場開拓のチャンスにも変えられる可能性も窺える次第です。
● 細胞培養ミルクで食料自給率向上に貢献へ(シンガポール)スタートアップのタートルツリー・ラブス
2020/8/13のJETROの地域・分析レポートに表記の記事が掲載されていました。
(引用は『』でくくります。太字と改行は筆者挿入。以下同様。)
『タートルツリー・ラブス(Turtletree Labs)は、2019年創業のシンガポールのスタートアップだ。
細胞から人工ミルクを培養する技術を持つ。食料の自給率向上を目指すシンガポール政府も、同社の技術に注目する。
同社は、2020年のテマセク基金主催の、都市課題を解決する技術を公募する「ザ・リバビリティー・チャレンジ(The Liveability Challenge、注1)」で優勝。
賞金として100万シンガポール・ドル(約7,700万円、Sドル、1Sドル=約77円)の資金を獲得した。60カ国から400件の応募があった中での優勝だった。
フェンルー・リン最高経営責任者(CEO)と、マックス・ライ・チーフストラテジストに、同社が細胞培養ミルク開発に取り組む背景、今後の展開についてインタビューした(7月22日)。なお両名は、同社の共同創業者でもある。』
同社や、同社以外にも米国のBIOMILQというスタートアップの人工母乳については、以下の記事などにも取り上げられており、人の細胞を使った母乳生産は、中々注目を浴びている技術のようです。
『BIOMILQ、人間の母乳の主成分の人工培養に成功 ほかFood technology News February 3rd week,2020』
2020/2/19のWireless Wire Newsの記事。
●『持続可能性の追求』において自然に近づく技術と離れていく技術に対する価値判断の課題が増大する
今回の記事や、以下の本ブログトピックスからは、「『持続可能性の追求』において自然に近づく技術と離れていく技術に対する価値判断の課題が増大する」様子が窺えるかと思います。
『2040年に人が消費する肉のほとんどは、動物から得た食用肉ではなくなり、6割は容器の中で培養されるか、肉と同じ見た目と味の“植物性の肉”製品に取って代わられる』
との以下の予想記事をご紹介しています。
『さよなら肉!「2040年にはほとんどが植物性の“フェイク肉”に」 | 【世界を見渡すニュース・ペリスコープ】 |』
2019/6/16のCOURRIERの記事。
動植物の細胞を利用するバイオテクノロジーは、牛乳に限らず、他の栄養素や医薬、エネルギー源(バイオマス)などの分野においても研究開発が進んでいます。
『ニーズ即応型技術動向調査 「バイオプロセス」 – 特許庁』
この様な技術は、必要な原料やエネルギー源なども再生型に移行すれば、環境負荷の低減には繋がるものかとは思いますが、一方で、自然に頼らなくても済む言うと言う、自然軽視風潮を促してしまわないかというリスクを感じます。
一方で、間伐材の有効利用などは、再生可能な資源というだけでなく、自然と共生しつつ持続可能な社会を作る取り組みの一つかと思います。
『間伐材などの有効活用への取り組み』
秩父地域森林林業活性化協議会のサイト「森の活人」
林野庁サイト(なお、2020年度は、新型コロナ対応などのため、本コンクールは中止となったそうです)
上記の二つの流れは、必ずしも対立するだけでなく、相互補完していくものかとは思いますが、
限られた資金や研究者などの資源をどこに振り向けるかという課題と、自分等の消費行動などを変えずに、持続可能性を図ることへの問題提起の双方を私たちに提示していると感じた次第です。
なお、今回のバイオリアクターの記事からは、元になる牛の細胞(遺伝子)が、改良植物の種子のように市場価値が高まり、知的財産面含めて囲い込みが進むリスクも高まるのではないかとも思うところです。
● 自社商品に関する知財が他分野で開発される可能性と囲い込まれるリスク
上記の人工、または食物起源の食肉は、既存の酪農家にとっては、競合相手でもありますが、自社が取り組めば、新規商品を開発し、商品ラインアップを広げて新しい市場を開拓するチャンスにもなり得ます。
これは、プラスチック製品の製造・販売企業とバイオ代替品の関係とも共通するものがあると思います。
最近の電子署名の注目度の高まりとハンコ関連業界の関係にも見るように、
自社商品の提供価値を、他の商品やサービスが持続可能性や新型コロナ対応によって代替する動きや、そのための技術開発が加速する可能性は大きく、また、他分野で発生した知的財産が、思わぬ所で自社の事業に影響を与える可能性も高まっています。
逆に、これら競合商品も取り入れて、自社商品のラインアップを広げ、市場を開拓することも、以下の記事に見るように、成長戦略の一つとなるかと思います。
『「100%電子化が難しいからこそ、使いやすい電子契約を」情報資産管理事業がGMOインターネットグループと電子契約を共同開発した理由』
日本通運グループであるワンビシアーカイブズ株式会社のデジタル化の取り組みに関する、2020/9/28のPR TIMES STORYの記事。
⇒電子契約を競合と感じていた企業が、完全なデジタル化は困難という顧客の状況に注目して、デジタルとアナログのハイブリッドサービスを、電子契約企業のGGMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社と共同開発するというもの。
顧客ニーズに対応して競合商品も取り込む参考になるかと思います。また、個々の顧客ニーズに着目しながら、自社の事業領域や市場を開拓する参考にもなるかと感じる次第です。
上記のように、自社事業の領域での異業種による知的財産の囲い込みというリスクと、競合とも手を組んで、市場を開拓するチャンスの両面において、
今まで以上に、5F、SWOT分析などの分析フレームワークと経営デザインシートの様な将来像の設定ツールを組み合わせて広くアンテナを張る必要性が高まっている事を改めて感じた次第です。
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