「米中の農業戦争」にみる知的財産という「資源」

●　中国対アメリカの農業大戦争が始まった

2018年1月13日のニューズウィーク誌日本版に表記の記事が掲載されていました。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/01/vs-18.php
（引用は「」でくくります。　改行は筆者挿入、以下同様）

「農業におけるアメリカの主導的な地位が、いま重大な試練に直面している。中国が農業部門の活性化を目指し、積極的な取り組みを行っているためだ。
（中略）
昨年には国有化学大手の中国化工集団が、スイスの農業大手シンジェンタを430億ドルで買収。過去最大規模の外国企業買収となったこの一件は、農業大国を目指す中国の本気度を示している。

バイオテクノロジー大手6社（ビッグ6）の1社であるシンジェンタを買収したことで、中国は農業関連分野で世界の知的財産のかなりの部分を手に入れただけでなく、欧米に対抗するという国家的使命を追求する強大な企業も抱えることになった。」

と中国が国をあげて農業の活性化のために、海外、特に欧米のバイオテクノロジーや農業関係の知的財産の取り込みを進めていることを報じています。

また、中国の台頭に対して、同誌は米国が取るべき対応として、
「研究開発能力では、アメリカが中国よりもはるかに優位にある。この地位を維持するために、アメリカの政府と民間部門は新たな革新的技術を開発する取り組みを改めて強化すべきだろう。

さらに中国に対抗する1つの方法が、統合戦略を通じて革新を加速させることだ。米農業会連合と米上院農林委員会の主任エコノミストを務めたロバート・ヤングは、専門分野の異なる農業関連企業を統合することが革新的な研究プロセスの追求につながると提唱している。」

と、研究開発での優位性の維持と、専門分野の異なる農業関連企業の提携・統合による農業ビジネス革新の加速を挙げています。

●　米中の知財戦争

「米国の中国に対する知的財産権侵害主張に学ぶべきリスク管理は？」
https://wp.me/p8EI7Z-fO
で米通商代表部（ＵＳＴＲ）が２０１７年８月１８日、中国が米国の知的財産権を侵害している疑いがあるとして、通商法３０１条に基づく調査を正式に開始したことや、

「中国の高速鉄道産業と自動車産業の相違にみる、自分自身の知的資産構築の重要性」https://wp.me/p8EI7Z-lD　
「中国の知的財産に対する姿勢は「ルールとツール」の使い分け？」
https://wp.me/p8EI7Z-fR
「中国の知的財産権強化の動きの影響は？」
https://wp.me/p8EI7Z-48

などで、中国の知的財産強化の取り組みをお伝えしてきましたが、

欧米だけでなく、日本も中国の知的財産への取り組みの影響を受けることは間違いないので、今後の動向にも注意が必要ですね。

●　エネルギーや食料と知的財産

昔から、エネルギーや食料などの「資源」を巡って戦争などの国家間の紛争や競争が行われてきましたが、これらの資源にかかわる「知的財産」も資源競争に組み込まれて来たことを今回の記事は伝えています。

バイオテクノロジーなどは分かり易い例ですが、
スマート農業のように、ＡＩ・ＩｏＴも農業、省エネ・採掘などを含むエネルギー、社会インフラなど、資源と関連する分野に適用されているので、その知的財産が各国の、ひいては私達の事業環境に与える影響は無視できませんね。

●　今までの「競争」がどう広がるかを考える

前述のとおり、エネルギーや食料という資源を巡る競争は以前から存在しているものであり、それが技術開発を通して知的財産の分野にも波及してきたと捉えることが出来るかと思います。

もちろん、ＡＩ・ＩｏＴによって、全く新しい競争が生まれることもあるかと思いますが、その競争はおそらく「全く新しい市場」の誕生を伴っていることが多いのではないかと考えております。

新技術や知的財産の影響を検討する場合、まずは現在と近い将来の市場で行われている競争が、どのように広がっていくのかという想定から検討を始めて、

その中で現在の自社の知的資産をどのように活用して拡大した競争の中で新しい「強み」を作っていくか、そこに新たに必要となる知的資産は何かを考えていくことが、まずは最初のステップかと考える次第です。

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