公正取引委員会の異業種連携指針策定にみる市場競争の予測方法
2018/11/30の日経電子版に表記の記事が掲載されていました。
(引用は『』でくくります。 太字と改行は筆者挿入、以下同様)
『公正取引委員会は自動運転や、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」などでの異業種連携を巡り、独占を防ぐための新たな指針を作る方針だ。企業が連携するときのビッグデータや知的財産の扱いについて、競争法上の問題となるかどうかの考え方を示す。販売シェアだけでは見えない市場の支配力でもルールを透明にし、健全な再編が進む環境を整える。
公取委の研究機関、競争政策研究センターが12月から検討会を開く。2019年夏にも結論を出し、公取委が独占禁止法の運用指針として新たに設定する見通しだ。』
と、従来の商品やサービスといった財の市場競争において、事業規模や市場シェアなどだけでなく企業が取り扱うビッグデータや知的財産が競争に及ぼす影響を考慮したルール作りを目指しているようです。
先日2018/11/5に公正取引委員会、総務省、経済産業省が公表した、
「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」中間論点整理(案)では、デジタル・プラットフォーマーを取り巻く各国制度の研究・評価や我が国における課題と対応等について検討を重ね,論点整理を行っています。
その中で、デジタル・プラットフォーマーの意義・特性について
ICTやデータを活用して第三者に「場」を提供するデジタル・プラットフォーム(オンライン・プラットフォーム)と呼ばれるサービスや、革新的なビジネスや市場を生み出し続けるイノベーションの担い手であるデジタル・プラットフォーマーが急激な成長を遂げていること、
デジタル化に伴い産業・ビジネスのレイヤー構造化(階層化)が進む中、レイヤーを押さえることによるプラットフォーム化は全体としては不可逆的な傾向であるとしています。
そのうえで、
『中小企業やスタートアップ企業にとって、こうしたデジタル・プラットフォームは、国際市場を含む市場へのアクセスの可能性を飛躍的に高めるものであり、時として爆発的な成長につながる機会をもたらすものである。』
と中小企業にとって、国際市場を含む市場へのアクセスを飛躍的に高める可能性を提供するインフラとしてデジタル・プラットフォームを位置づけています。
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/nov/181105_1.html
このように、ビッグデータとそれを流通させるインフラを形成するデジタル・プラットフォーマーの影響が大きくなっていくことは、GAFAなどを見ても容易にうなずけることであり、公正取引委員会がその動向に注目して今回のような指針づくりに取り組んでいることが窺えます。
以前「プラットフォームビジネスにみるエコシステム間の競争」
でお伝えした、レイヤーマスターとバリューチェーン全体の垂直統合型の2つの流れ、そしてプラットフォーム間の競争からエコシステムの競争へという流れがここにも現れているのではないかと感じた次第です。
● 競争力の源泉がデータや知的財産に
現在の米中貿易摩擦においても知的財産がその焦点の一つとなっていますが、
「中国の世界最長の橋の建造にみるコントロール出来るルート造りの重要性」
でも採り上げた欧米中それぞれが牽引する3つのインターネット体制、
2018/10/28の1日5分ビジネス英語のトピックス「サウジアラビアの5,000億ドルの巨大都市」が報じているサウジのスマートシティ建設プロジェクトなどから、現在
「石油(あるいは化石燃料)の次の資源の模索と争奪戦」が始まっていることを感じます。
その「次の資源」は大きく「再生可能エネルギー及びその利用システム」と「AI・IoTなどのハイテク、ビッグデータ」に分かれているかと思います。
サウジや中国がこれら2つの資源の確保を急いでいる(中国のAI関連投資は既に米国を抜いたというニュースも度々目にします)ため、米国が特に自国のハイテク産業の保護のために米中貿易戦争を進めているようですね。
以前、「米国の中国に対する知的財産権侵害主張に学ぶべきリスク管理は?」
の中で、私は、米国が知的財産を貿易戦争で採り上げているのは、他の通商または政治的な目的を達成するための口実かと考えていることを申し上げましたが、
どうやらハイテク産業に関わる知的財産を本気で保護するためかと思い直しているところです。
EUの個人情報保護もこの流れでみると、新しい産業資源としてのビッグデータの争奪戦の一部と感じます。
以下の記事も参考になるかと思います。
「日本人が気づいていない、米中貿易戦争「これから本当に起きること」」
● 知的資産や知的財産、ビッグデータを自社の競争力に引き寄せて考える
「欧州の著作権法の変化に考える「コンテンツ取引、データ取引」での立場の違い」
で、自社がデータを提供する側か、利用する側かといった立場の違いを相対的に把握しつつ、規制や契約ガイドラインなどを見ながら契約や取引を進める必要があるとお伝えしましたが、
中小企業においても、自社のデータや知的財産、それを蓄積し活用する仕組みと言った知的資産を今まで以上に自社の競争力を左右する要素として考える必要があると改めて感じます。
自社の強みを構築する材料であり、また事業提携などの取引の材料(ある意味、企業の提供価値の流通手段)としても知的資産を意識して競争戦略を立てることが重要になってきており、そのためにも知的資産経営報告書の活用は今後有用性を増していくものと予想する次第です。
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