『日本人の勝算』を読んで-「ライフ・シフト」は他人事ではない!?

● 『日本人の勝算―人口減少×高齢化×資本主義』デービッド・アトキンソン 著

先日、『日本人の勝算』Kindle版を読みました。

著者は、元ゴールドマン・サックスのアナリストで日本在住30年のデービッド・アトキンソン氏です。

本書は、「人口減少×高齢化」により日本に起きるパラダイムシフトその対策について、数多くの海外のエコノミスト達のデーター・研究に基づき、主に政策の面から提言を行っています。

行政だけでなく、企業の経営者に対しても苦言を呈していますが、著者の情熱と、圧倒的な数の参考文献による分析による多くのかつそれぞれが連携した対策案は、今後の日本の行末を考えるに当たって参考になるところが多く、是非一読をお勧めする次第です。

本書は紙媒体では323ページとそれなりの分量があり、以下の構成となっています。

第1章 人口減少を直視せよ――今という「最後のチャンス」を逃すな
第2章 資本主義をアップデートせよ――「高付加価値・高所得経済」への転換
第3章 海外市場を目指せ――日本は「輸出できるもの」の宝庫だ
第4章 企業規模を拡大せよ――「日本人の底力」は大企業でこそ生きる
第5章 最低賃金を引き上げよ――「正当な評価」は人を動かす
第6章 生産性を高めよ――日本は「賃上げショック」で生まれ変わる
第7章 人材育成トレーニングを「強制」せよ――「大人の学び」は制度で増やせる

本書の中でアトキンソン氏は、

人口減少で今後深刻なデフレと経済の停滞が起きること、その対策としては、生産の向上が必須であり、生産性向上を実現するためには、

・企業の統合等による企業規模の拡大

・価格引き下げの競争から、「高付加価値・高所得経済」への転換

・技術革新の成果の普及

が必要であり、これらを実現するには、経営者の任意の行動に任せていては叶わず、経済政策として

・最低賃金の引き上げ

・全業界に渡る人材育成のトレーニングを「強制する」制度

を採用するよう強く主張しています。

 

● 私の気付き

本書で特に私にとって強い印象を受けた部分は、以下の3点でした。

1.生産性が低い企業は、優秀な人材を安い賃金で使うことで存在できている。こういった企業を含めて日本全体の生産性の底上げを図るには、最低賃金を上げることで強制的に生産性向上を進めさせる必要がある。

イギリスの事例では、サービス業は失業が増えることもなかった一方で、生産性が1998年から2000年の間に11%も改善したとのこと。

私が入っている樺沢塾で、先日樺沢先生がオーストラリア視察旅行の内容を語っている中に、「オーストラリアの最低賃金は日本の約2倍で、時間外労働や休日労働の割増率も非常に高い。そのことが、日本よりも高い生産性を実現している要因の一つである。」との指摘がありましたが、

本書と同じく、最低賃金や時間外労働のコストを上げることで、生産性向上へ向かうインセンティブが企業(経営)側に生じるということは、海外では共通認識かと感じました。

更に、アトキンソン氏は、全国一律の最低賃金にすることが、東京等大都市への人口流入と地域の過疎化を防ぐためにも必要と述べており、これは、以下の記事などでも報じられているように、先日自民党が参院選の政策集に全国一律の最低賃金導入を中長期的な課題とはしながらも載せている事と通じていますね。

同記事には、アトキンソン氏の名前も『最賃一律化が持論で政権幹部とも親交のあるデービッド・アトキンソン小西美術工芸社社長』として紹介されています。

自民、最低賃金を一律化 参院選 政策集に明記へ
2019/5/4 産経ニュース
この最低賃金による全体の底上げのロジックを、個別の企業に適用するとどの様な人材育成やモチベーションアップの施策が考えられるかも考えてみたいと思います。

 

2.企業規模と、生産性や技術革新の導入には相関がある。人口減少による需要減への対応と生産性向上による経済成長を実現するためには、企業統合による企業規模の拡大(企業総数の減少)が必要

⇒これが、中小企業を応援する立場としては、実は一番ショックな指摘でした。
確かに、例えば女性が働きやすい環境を考えてみても、産休や育休を取れるためには要員の余裕が必要になりますね。

もちろん、小さくともキラリと光る企業が数多くある事も事実ですが、日本全体の生産性向上という観点からは、中小企業が「中小」のままでいる事が許されない環境になって行くのかと思いました。

中小企業をサポートする側としても、現状維持ではなく成長を、通常の事業承継に加えてM&Aなどによる企業統合も視野に入れた事業継続と拡大を目指す事が必要かと考えさせられた次第です。

 

3.生産性向上の取り組みにおいて、技術革新の成果を活用するためには、従業員と経営者の人材教育が必要。人材教育においても、教育投資への格差による社会の格差拡大の防止や、1部の企業教育を行った企業からの人材引き抜きによりによるただ乗りの防止のために全業界に人材育成を強制する政策が必要。

⇒アトキンソン氏は、イギリスの新しい職業教育訓練制度 Vocational Education and Training (VET)を紹介していますが、企業から税のように一度徴収しておいて、人材教育に投資した企業には一部補助を加えて払い戻す制度とのこと。

企業で言えば、予め従業員から給料の一部をプールして、業績連動給や、自己啓発への補助に当てるといった方法に通じるところがあると思います。

任意の制度の限界と強制力の必要性が繰り返し強調されていますが、最低賃金引き上げと同じく、日本全体の底上げという観点からは、個別企業の事情に応じた対応とは異なる方向からの施策も必要かと思いました。

前述の自民党の政策集のように、こういった施策がどのように進むか、中小企業をサポートする側としても、人材育成や知的資産経営の人的資産の強化の面からチェックして行きたいと思います。

 

● 「ライフ・シフト」は他人事ではない。

本書では、高齢化社会対応として、子供・学生の教育だけでなく、社会人の教育に力を入れるべき、特に経営者教育が必要と説いています。

あのLIFE SHIFT(ライフ・シフト)も提唱している、人生の中での再教育への投資を個人レベルだけでなく国家レベルで行う事を提言しています。

人生の二毛作、三毛作を可能にする為の再教育や再学習を進める施策、それも強制力を伴ったり、取り組まないと不利になったりする施策が打たれるようになると、社会人に求められる学習能力がさらに高レベルなものになっていくものと想定できます。

正に、「『ライフ・シフト』は他人事ではない。」との感を深くする次第です。

 

【まとめ】

⒈ 人口減少と高齢化が急激に進んでいる日本では、現在の低い生産性を国全体として底上げする必要があり、そのためには最低賃金の引き上げが不可欠という主張。
⇒段階的に最低賃金が引き上げられたときの自社への影響や、この施策を自社の生産性向上に適用するとどの様な打ち手があり得るか考えてみる。

⒉ 生産性向上や技術革新の成果導入には企業規模の拡大が必要。
⇒中小企業でも現状維持から成長拡大を目指す事を検討する。
事業承継においても、後継者探しに加えて、M&Aによる企業統合なども視野に入れて選択肢を広げる。
企業をサポートする側も、成長や規模拡大を図る視点を常に意識する。

⒊ 生産性向上や技術革新の成果活用には、社員、経営者の人材教育も必要。社会人教育を普及するための強制力を持った施策が必要。
⇒自社の人的資産の強化の機会と捉えて行く。
企業をサポートする側も、この様な施策の動向を見つつ、企業の施策への対応を支援して行く。

 

● こんな人にお薦め

本書は、経営者、特に中小企業の経営者の方や、主に中小企業をサポートするビジネスに関わっている方の参考になるかと思います。

また、中高年で会社勤めをされている方にも、すぐに実現するかどうかは別として、この様な施策が提言されているという事を踏まえた人生設計や自己啓発を考えるきっかけとして一読をお勧めする次第です。

『日本人の勝算―人口減少×高齢化×資本主義』デービッド・アトキンソン 著

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