「学力の経済学」にみるアウトプットへのインセンティブの与え方と効果
● 「学力」の経済学
2015/6/18 中室 牧子 (著)
先日、表記の本を読む機会を得ました。
「ゲームは子どもに悪影響?」
「子どもはほめて育てるべき?」
「勉強させるためにご褒美で釣るのっていけない?」
といった、教育上の疑問に、データによる経済学的な手法で分析する教育経済学をわかり易く紹介しています。
本書の構成は以下のとおりです。
<目次>
第1章 他人の〝成功体験?はわが子にも活かせるのか?
– データは個人の経験に勝る
第2章 子どもを〝ご褒美?で釣ってはいけないのか?
– 科学的根拠に基づく子育て
第3章 〝勉強?は本当にそんなに大切なのか?
– 人生の成功に重要な非認知能力
第4章 〝少人数学級?には効果があるのか?
– エビデンスなき日本の教育政策
第5章 〝いい先生?とはどんな先生なのか?
– 日本の教育に欠けている教員の「質」という概念
私は、「法と経済学」(経済学の手法を法制度の分析や法規制の策定に応用する学問)の分野を学んだことがありますが、経済学の手法(統計分析など)は、法制度や教育など他の分野にも応用が効く事を改めて感じました。
● インセンティブはアウトプットとインプットのどちらに与えるべき?
本書では、上記のようないろいろな疑問に対して、今までとは異なる見解が述べられていますが、私にとって一番印象に残ったのが、
「テストで良い点を取ればご褒美」と「本を読んだらご褒美」のどちらが効果的?
というものでした。
樺沢紫苑さんのアウトプット大全 で、アウトプットの重要性を認識していたので、当然「テストで良い点を取れば=アウトプットが良ければご褒美」の方が、「本を読む=インプットに対するご褒美」よりは効果があると思ったのですが、あにはからんや、
米国の5都市で94億円も使って行われた大規模実験(小学生~中学生約3万6千人が対象)では、「インプットにご褒美を与えられた子どもたちが学力テストの結果が良くなった」というものだったそうです。
この結果を見て、大変以外に感じたのですが、その後の部分を見ると、
「結果に対してのインセンティブは、その結果に至るための手段、道筋が示されないと、どうすれば良いかが分からないため、効果が出ない」と記載されていたのをみて、なるほどと思った次第です。
● ビジョン⇒目標⇒課題⇒打ち手のセットの提供
会社の事業計画策定などでも、ビジョンから目標を立て、目標と現状のギャップから課題と打ち手を考えるという方法がよく取られますが、
本書のアウトプットへのインセンティブ効果というのは、いわばビジョンと目標だけ与えて、そこに至る道筋が示されていない状況での効果ということになりますね。
アウトプットの結果に対するインセンティブは、アウトプット改善の方法とセットで与える必要があることが、教育経済学の分野でも証明されたということで、大変参考になりました。
逆に「アウトプット大全」を実践してみて、私自身は効果を実感していたのですが、それはアウトプットのやり方とアウトプットの前提となるインプットにも言及しているからだということを再認識した次第です。
● データで語ることの必要性を感じている方、自分の論拠に自身が持てない方に
前述のとおり、本書は一見今までの常識と異なる結論を、データに基づき論理的に解析して導き出しています。
データなど客観的なエビデンスに基づいて議論することの必要性を感じている方、や、普段仕事で自分の発言の裏付けに今ひとつ自信が持てないと感じることがある方にもお薦めできる一冊かと思います。
「学力」の経済学 2015/6/18 中室 牧子 (著)