「進化思考」~「温故知新」と「不易流行」による螺旋的発展と生き残り戦略

【今日のポイント】

進化のメカニズム「変異と適応」のキーワードで解き明かしながら、創造との類似性から我々の創造性発揮の手法を紹介している進化思考

その実践的な内容に加えて、筆者の社会課題解決や未来への熱い想いが伝わってくる、是非一読をお薦したい一冊です。

【目次】
1.進化思考――生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」
2.「可視化」による知見の広がりと進化とデザイン経営の関係
3.PTEF(予測(仮説)⇒トライ&エラー⇒フィードバック)のサイクルと進化

 

1.進化思考――生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」

先日「進化思考――生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」 (海士の風)Kindle版 太刀川英輔(著)」を読みました。

単行本(ソフトカバー)はこちら

● 本書の構成と概要

本書の構成は、以下の通りです。

(引用は『』でくくります。太字と改行は筆者挿入。以下同じ。)

『はじめに
序章創造とは何か
第一章進化と思考の構造
第二章変異HOW
1変量──極端な量を想像してみよう
2擬態──欲しい状況を真似てみよう
3欠失──標準装備を減らしてみよう
4増殖──常識よりも増やしてみよう
5転移──新しい場所を探してみよう
6交換──違う物に入れ替えてみよう
7分離──別々の要素に分けてみよう
8逆転──真逆の状況を考えてみよう
9融合──意外な物と組み合わせよう
第三章適応WHY
1解剖──内側の構造と意味を知ろう
2系統──過去の系譜を引き受けよう
3生態──外部に繋がる関係を観よう
4予測──未来予測を希望に繋げよう
第四章コンセプト
 変異と適応の往復
 創造の交配
 創造が価値になるとき

終章
 創造性の進化
  人間中心からの卒業
   創造性教育の進化
おわりに
出典一覧
参考文献
詳細目次』

各章には、『進化ワーク』として、本書の内容を自分(組織)で身につけるための演習が所要時間とともに入っていますので、進化思考の演習書としても活用できるものとなっています。

本書は単行本ですと512ページとかなり大部で、かつ随所に示唆を得られる内容が溢れていますので、まずは、上記の『詳細目次」を俯瞰して、全体像を掴んでから各章に進むと、個別の理解もしやすく、かつ他の部分との関連からの気づきも得られやすくなるものとお勧めする次第です。

 

● 私が参考になると感じた内容

本書の中で私自身は、以下の箇所が大変参考になりました。(各文頭のPXX は、Kindle版のページ数で、単行本とは異なります)

 

1>第一章 進化と思考の構造

P396
『創造性とは、「狂人性=変異」と「秀才性=適応」という二つの異なる性質を持ったプロセスが 往復し、うねりのように螺旋的に発揮される現象である、という考えだ。』

『脳内の葛藤と対話』の一節。
著者はこの後で、この変異と適応を往復し、螺旋的に思考を巡らせことが創造性の鍵であり、天才だけでなくとも、この思考プロセスを利用することで創造性を発揮できると説いています。

この『変異(HOW)と適応(WHY)』は、本書で、進化と創造を繋ぐメインのキーワードとなっており、双方を兼ね備え、使い分けることの重要性が窺えます。

P666『これらの思考を自在に往復できると、何が起こるのか。この考え方を体得 するなかでの私自身の変化を振り返ると、一言で言えば「素直になり、自由になった」気がしている。』

『進化の螺旋を回す思考』の一節。
著者は、変異(失敗は進化に必要)適応(失敗の理由を本質的に理解して納得できる)の2つの思考を繰り返すことにより、トライ・アンド・エラーを自由かつ気楽に出来るようになったことで、自由になったと語っています。

このVUCAの時代に、トライ・アンド・エラーを意識的に数多く行うことは、非常に重要であり、かつ、そこに適用という視点でのフィードバックを取り入れる事で、発展するだけでなく、心理的にも自由になれるというのは大変励まされる言葉であり、かつこれは個人、組織双方にとって必要な考え方と感じた次第です。

 

2>第二章 変異HOW

P1741『交換的発想は、あまりにも数多く社会に存在するため、便宜的に「物理的な交換」「意味的な交換」「概念的な交換」の三つのタイプに分類して、これから説明してみたい。』

『創造における交換』の一節。
冒頭の本書の構成に記載の通り、著者は変異のパターンを、1変量、2擬態、3欠失、4増殖、5転移、6交換、7分離、8逆転、9融合の9種類に分類して、それぞれの進化と創造の双方での現れ方や使い方を解説していますが、上記の「交換」もその一つです。

『物理的な交換(WHAT)』として色違いのボールペンの芯などや電池など数多くの例があがっていますが、そこでは、「規格化」が交換を活用する上での重要なキーとなっていることは、モノだけでなく、ソフトウェアや、各種サービスなどでも同様ではないかと思います。

今後の「モノからコトへ」の流れが進む中では、この交換のための規格化の概念は、更に重要性を増すものと予想しています。

 

また、『意味的な交換(WHY)』では、同じ目的を持つものへの交換と定義しています。
これは、5F(ファイブフォース分析)の「代替品の脅威」のように、マーケティングや事業戦略でも重要な要素であり、そこに進化(変異と適応)の視点を入れることで、更に中長期に渡って、広い視野で本質的な検討が行えるのではと感じます。

『概念的な交換(THAT)』では、通貨やチケットなど、価値の代替品を設定して交換を容易にする手法をその例として挙げています。
現在のキャッシュレスやAIによる顔認証など、この「概念的な交換」も新技術と新型コロナ下での非接触ニーズなどにより、活用する価値が高まるものと考える次第です。

 

3>第三章 適応WHY

P2296『進化思考では、 ティンバーゲンの方法を一歩前へ進め、解剖生理学と発生学を「解剖」として統合し、未来を考察するための「予測」の手法を加えた、「解剖」「系統」「生態」「予測」という四つの分析によって適応を観察する。

この四つの見方で世界を観る観点を合わせて、「時空観学習(Space-Time Adaptation Learning)」と呼んでいる。』

⇒著者は、「変異」と並ぶ進化思考の基本要素である「適応」「解剖」「系統」「生態」「予測」の4つの分析法で利用する方法を解説しています。

それぞれの内容も大変示唆に富んでますが、

「解剖」の例としての「張力(膜などに働く表面張力など)」の例のように、シンプルなメカニズムが最適化を進める例は、課題を解決する上で、対象となる事象の本質を掴んで、なるべくシンプルな手法で対応するうえで大変参考になりました。

また、「系統」過去からの流れを系統図で整理して俯瞰し、把握する方法は、私が未来予測や世の中の流れの把握の切り口としてよく使っている「温故知新」を、それこそ「系統的に抜けもれなく」行う方法として今後取り入れたいと思っています。

P3443『文明は自然と物事を説明するための文法体系を構築していった。
その結果、5 W(「 いつ」「どこで」「 誰が」「何を」「なぜ」するのか)と1H(「どう」やるのか) を使えば、 あらゆる状況を説明できると考えるようになった。』

『生態ー外部に繋がる関係を観よう』の章の一節。

筆者はこの章で、外部に繋がる関係性の観察方法を説いていますが、その際に上記の5W1Hの各項目ごとに進化や創造における外部との関係性の把握方法を、生態系マップなど豊富な例を紹介しています。

オープンイノベーションやSDGsなど、従来の枠を超えて、外部とのつながりを考慮する必要性が、公私共に高まっている現在、この外部との関係性把握の手法の価値も高いものと、今後の活動に取り入れる方法を考えている所です。

P4856『イノベーションのためにはデザインが必要だと世界中で語られる背景には、デザインの持つ未来を可視化する力がある。可視化には、未来を手元に引き寄せる力があるのだ。』

『予測ー未来予測を希望に繋げよう』の一節。

筆者は、『バックキャストー目標から逆算する』
の中で、アラン・ケー氏(パーソナルコンピュータの父)の『未来を予測する最善の方法はそれを発明すること』の名言をひきながら、

上記のように可視化することで望む未来を実現することを、進化の面では、カンブリア紀の生物の視覚獲得による爆発的進化や、創造の面ではビジョン、イマジネーション、神話等を例にとって、その活用方法を説いています。

この方法、考え方は、先日ご紹介した書籍「SF思考」 や、以下のトピックスなど、本ブログでもたびたび利用をおすすめしている「経営デザインシート」と共通するものであり、ビジョンや夢、企業理念などから望ましい未来を考え、そこからバックキャストで現在の課題を設定することの重要性を改めて感じた次第です。

『経営デザインシートにおける将来の外部環境予測の情報源と使い方』

 

4>第四章 コンセプト

創造性の五原則

変異 ── 明確で非常識な挑戦を繰り返したか
解剖 ── シンプルで無駄がなく揺るぎないか
系統 ── 過去からの願いを引き受けているか
生態 ── 人や自然の間に美しい関係を築くか
予測 ── 現在を触発し未来に希望を与えるか』

『変異と適応』の一節。

筆者はこの章で、適応の愛、変異の力など、コンセプトの発想と創造において、母性的な「愛(願い)」とそれを実現するための「力」の双方を兼ね備えることが、社会課題の解決などへの創造の適用には必要であり、片方だけでは創造に至らないか、あるいは外を及ぼす創造につながってしまうことを説いています。

これは、「力なき正義は無力であり、正義なき力は暴力である」などの言葉と共通するものと感じますが、

その「正義」や「力」を得て、かつ両者を組み合わせる方法として、本書の「変異と適応の往復」という考え方は、具体的な手法を提示するものとして大変参考になりました。

また『予測的な未来視』は、前述の経営デザインシートでは、以下のトピックスでお話ししているような、リスクマネジメントでの活用法にも通じるものかと思います。

『新型コロナ下でのBCP策定に考える、デザイン思考や経営デザインシートの活用方法』

 

なお、終章(創造性の進化)本書のあとがき(おわりに)を読んで、私は、著者の未来への強い想いに深い感銘を受けました。

『ファクトルフルネス』を読んで-世界と自分を知る鏡(後編)でご紹介した、
『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(ハンス・ロスリング; オーラ・ロスリング; アンナ・ロスリング・ロンランド著)のあとがき(本書の執筆を決めた後、著者が末期ガンの宣告を受けて、自身の子どもたちと本書の執筆を続けていた事)と重なるものを感じた次第です。

 

2.「可視化」による知見の広がりと進化とデザイン経営の関係

本書と先日ご紹介した「SF思考」との共通点として、「可視化」の重要性を語っていることが挙げられます。
対象は未来や現在の課題、進化の過程など様々ですが、「目=視覚の獲得」によるカンブリア紀の進化の大爆発の例のように、視覚に限らないデータや視覚以外の五感も含めた「可視化」の手段の獲得その結果得られる知見の影響は非常に大きいものがあります。

また、現在顧客ニーズの把握などを含めて「デザイン」デザイン経営のように現在注目を浴びているのも、この可視化を実際に行う上で、デザイナーの手法や思考法が有効な事が要因と本書を通じて改めて感じました。

そして、自社のありたい将来像を描き、そこからバックキャストして現在の課題と戦略を設定する「経営デザインシート」もまさに、この「可視化と共有を実現する手段」であるからこそ、VUCAの現在、経営をデザインする上での有効なツールになり得るものとの感を深くした次第です。

 

3.PTEF(予測(仮説)⇒トライ&エラー⇒フィードバック)のサイクルと進化

本書が説く「変異と適応」の繰り返しによる進化は、行政や企業などの組織や個人レベルでは、仮設と検証のサイクルを回して課題を発見し、対応することを繰り返してくことによる発展と符合していると感じます。

また、本書には、随所に『進化の螺旋』などの「螺旋的発展」のコンセプトが登場していますが、本書にも触れられている変わるものと変わらないもののバランスの重要性『不易流行』との言葉で現していることに通じるものかと思います。

温故知新と不易流行により、バックキャストとフォアキャストを組み合わせつつ仮設と検証のサイクルを回しながら将来を見据えて現在の課題に取り組むこととの必要性を教えてくれるとともに、そのための視点や作業(ワーク)など実践的な内容も数多く提示してくれており、

なによりも、あとがきも含めて、著者の未来への強い危機感と熱い希望の双方が伝わってくる当事者意識を強く持つ事を促してくれるという点からも、

イノベーションや未来予測、リスクマネジメントなどに関心のある方には、先日のSF思考と並んで是非お薦めしたい一冊です。

進化思考――生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」 (海士の風) Kindle版 太刀川英輔(著) 

単行本(ソフトカバー)はこちら

 

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