宅建試験の出題予測にみるAIの得意分野と課題
● AIが予想した宅建士試験の出題的中率が78%
サイトビジットが事前に予想
2018/10/22 のWEDGE RPORTに表記の経済ジャーナリスト 中西 享氏の記事が掲載されていました。
(引用は『』でくくります。 太字と改行は筆者挿入、以下同様)
『 年に1度、約20万人が受験する宅地建物取引士試験が21日に行われたが、資格試験のオンライン学習サービスを提供するサイトビジット(東京都千代田区、鬼頭政人社長)は、この試験の出題をAI(人工知能)を使って事前に予測した。同社が22日に発表した結果によると、同試験問題の出題的中率は78%となり、予想を上回る的中率になった。
(中略)これからはAIが得意とする選択式が中心の試験(例えば行政書士)などの予想問題の作成をしたいとしており、出題者側とAIを活用した予想問題を作る側の攻防がみられるようになるかもしれない。』
と、宅地建物取引士試験についてAIで出題予測したところ、78%の的中率を達成したということです。
また、AIは選択式問題を得意としており、同じ形式をとる行政書士の試験などへの展開を目指しているとのこと。技術士や中小企業診断士の一次試験なども、視野に入っているかも知れませんね。
今後の展開に士業の人間としても大変興味を持って見ております。
● AI導時入の技術的課題
同記事では、AIを資格試験の出題予想に適用するにあたって、以下のように過去の問題のカテゴリー分けが課題だったと報じています。
『カテゴリー仕分けが課題
予想問題を作成するに当たって、1989年から2017年までに出題された29年分の過去問題1450問を教師データとしてAIに学習させ、そこから2段階のプログラムを経て、今年出題される問題を予想して50問作成したという。
問題作成で最も苦労したのがカテゴリー仕分けだった。過去に出題された1450問を93あるカテゴリーに分類し、各カテゴリーの年度ごとの出題数を学習させ、今年度に出題される可能性の高いカテゴリーを50予測、その後、予測したカテゴリーの中から問題をランダムにピックアップして予想問題を作成した。』
このように、AI利用においてどのデータをどの部分で利用するか(今回は問題のカテゴリー)ということについては、まだ専門的な人材による調整が必要な場面は多いかと思います。
また、同記事では記述式問題では、過去問の学習に時間かかることがAI導入のネックとなっているとのことなので、新たなブレークスルーが求められているかと感じております。
● AI導入時の人材の課題と対応
今回のAI適用ではフィリピンのIT人材を活用したとのこと。これは、試験問題という、論理的で用語の定義が明確かつある程度限定されている分野では、英語でのコミュニケーションでも、日本語の試験問題に関する業務を任せられることを実証しているというところは注目すべき点かと感じます。
よく、インドのIT人材の活用が話題に登りますが、まさにグローバルな適材適所が進んでいることが窺われますね。
人材のグローバルな確保はAI・ICTで言語の壁が解消できれば更に進むものと予想されます。
● 試験問題と同じような性質を持つAIの適用分野を考える
AIの適用先としての今回の試験問題作成や添削などは、
「特許庁とAIの相性は?」
や
「三菱総研のAIによる行政への問合せさ対応サービスにみる(ニーズの多様化と標準化の両立)」 https://wp.me/p9D2bS-HI
でご紹介した行政サービスや特許情報の分析・利用など既にある程度標準化が進んでいたり、用語の定義が明確な分野、
「AIによる契約作成サービスにみる知恵の流れとプロセス」
や
「リクルートのAIによる契約レビュー企業への出資にみる「定形作業代替の次に来るもの」」
でご紹介した、契約書作成やレビュー・修正サービスのように、論理的な文章の取扱いでも、また専門家が事前調整や最終的なチェックを行うという、ある意味AIと人間の協業の一例という点でも共通するものがあるかと思います。
そして、導入時の課題にも共通するものがある可能性は大きく、今回のカテゴリー分けなどの課題、人材確保などについては他分野でも参考になるのではないかと思っております。
● AI・ビッグデータの活用の可否が大きな格差を産む可能性
このように、多くの分野で適用が進むAI・ビッグデータですが、
今回の試験についていえば、資格試験だけでなく、大学受験などでもAIを利用できるかどうかで受験者の合格率が変わるという事態がもうそこまで来ていることを窺わせます。
これを格差と見るか、求められるリテラシーの変化と見るか、いずれにせよ試験を受ける側、そのサポートをビジネスにする側も対応することを迫られて来ていると思います。
そして、これは試験以外の業界においても同様であり、AI・IoT、ビッグデータを活用できるかどうかが自社の競争力やビジネスチャンスに大きな影響を及ぼす時代となっていることを改めて感じた次第です。
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